自閉スペクトラム症と記憶:教育への示唆(堀田 千絵 著) -奈良教育大学 出版会-
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自閉スペクトラム症と記憶:教育への示唆 奈良教育大学教職開発講座堀田 千絵 自分の記憶は一体どうなっているのだろう。おそらく気になったことがあるのではないでしょうか。「あの参考書を何度も見たはずなのに…」と、いざテストになると思い出したくても思い出せなかったり、「あれ?本当にこれであってる?」と、覚えたことと違うエピソードを思い出したり…。思い出したくないのに、ふと浮かんだりもします。なぜ思い通りに自分の頭の中をコントロールできないのでしょうか?この不思議な「記憶」について、心理学の中ではどのように研究されているのか知りたいと思うようになったのがきっかけで研究をし始めました。大学3年生の頃です。そして、大学を卒業する頃に、「自閉スペクトラム症」と出会います。当時は、自閉性障害、高機能広汎性発達障害、広汎性発達障害、アスペルガー障害等、様々な専門用語が飛び交っていました。現在は「自閉スペクトラム症」という用語として統一されるようになりました。 それでは、なぜ自閉スペクトラム症と記憶の働きに興味をもつようになったのか、2003年にタイムスリップしてみていきたいと思います。 1.自閉スペクトラム症との出会い 最初の出会いは、実際の「人」ではなく、「論文」の中でした(1)。どのような論文の内容であったか簡単に言えば、「自閉スペクトラム症の人が思い出した内容は間違いが少ない」というものでした。もう少し具体的に説明したいと思います。例えば、「春、4月、サクランボ、並木、ピンク」という「桜」に意味的に似たいくつかの単語を皆さんが覚えたとしましょう。しかし「桜」は覚える単語には含まれていません。しばらくして、どのような単語があったのか思い出してみます。すると、多くの人は覚えていないはずの「桜」を思い出す。しかも「絶対に覚えた」と強い確信でもって…。これは「フォルスメモリ(虚偽の記憶)」と言われています。意味的に概念が形成されている単語同士を覚えれば、どうしても「桜」も連想が活性化されて思い出してしまうわけです(2)。

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