自閉スペクトラム症と記憶:教育への示唆(堀田 千絵 著) -奈良教育大学 出版会-
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思いました。その研究を紹介します(4)。繰り返しますが、調べたいことは、「忘れようと努力すれば忘れられるのか」ということです。結果は図1です。 図1ASD(自閉スペクトラム症)群とTD(定型発達)群の「何もしない(0回)」 条件と「ある単語を繰り返し考えないようにした(12回)」条件における平均正再 生率(左図)、並びに忘れるように努力していたかどうかの教示への順守と方略の使 用(右図)※①②③は本文に対応しています。 詳しい分析結果は省きますが、3つのことがわかりました。 自閉スペクトラム症の人たちは、 ① 完全に覚えた内容を思い出すよう求められたときにうまく思い出せない ② 忘れようとしても忘れられず容易に思い出してしまう ③ 忘れようと努力すれば思い浮かんでこない つまり、うまく思い出せないし、うまく忘れられない。しかも、思い浮かばないようにできるので忘れられているように外からは勘違いされやすいという結果でした。あくまで定型発達の人たちとの相対的な比較にはなりますが、現実場面で忘れられないと悩んでいる自閉スペクトラム症の人々の一端が解明されましたが、「浮かばないようにできたのなら、忘れられるはずでしょ?」という思い込みにも気づかされ、自閉スペクトラム症の人たちの記憶の働きはそんなに単純ではないと気づかされました。 このように、自閉スペクトラム症の人々の記憶の働きを調べたり、直接話をしたりするようになってみると、自閉スペクトラム症の人の小さい頃から継続している生きづらさ、不器用さが見えてくるのと同時に、幼少期からの記憶の① ② ③

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