「静かにしてくださーい!」-授業場面の作られ方の社会学的考察-(粕谷 圭佑 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
3/9

発される場面では何が起こっているのでしょうか。 本稿では、このありふれた発話に着目することを通して、学校の授業がどのように「作られているのか」を考えていきたいと思います。その作業を通して、筆者が取り組んでいる研究のひとつである「学校場面の相互行為分析」の雰囲気を伝えることが、この文章のねらいです。 2. 授業場面の「作られ方」 さて、授業が「作られている」と聞くと、教師の授業案を思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし、筆者は、この「作られる」に、「授業は教師と児童生徒のやりとりによって作り上げられていく」という意味を込めています。まずはこのことを確認していきましょう。 いきなりですが、学校の授業場面には日常場面とは異なった振る舞いのルールがあります。これは多くの人にとって理解しやすいと思います。たとえば、授業中は立ち歩いてはならない、発言するときは手を挙げる、トイレは休み時間に行く、などです。そして、授業中は静かにしなくてはならない、ということも、授業場面のルールの一つであると言えるでしょう。 高校生からすれば、これらのことはあまりにも自明かもしれません。しかし、小学1年生を担任する先生が苦心するのは、まさにこういう授業場面のルールを子どもたちに学ばせなければならない点にあります。実際に小学校1年生の学級を観察すると、教科的な内容を教えるのと同じか、あるいはそれ以上に、学校での振る舞いを教えることに時間と労力が割かれていることに気づきます。 さて、ここでは「授業中は静かにしなければならない」というルールに焦点を絞って考えてみましょう。「静かにする」とは、言い換えれば「発話しない」ということです。つまり、このルールは、発話に関する規則に言及しています。 では、そもそも発話にはどのような規則があるのでしょうか。少々遠回りになりますが、これまで社会学の領域で行われてきた会話の研究について紹介したいと思います。 社会学の会話分析という領域は、人々がどのように発話行為を行っているのかについて、多くの知見を積み上げてきました。一例を紹介すると、会話分析の代表的な知見に、「会話の順番交代」という営みの発見があります(1)。その知

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る