「静かにしてくださーい!」-授業場面の作られ方の社会学的考察-(粕谷 圭佑 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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見を、とても大雑把に、ここでの関心に即して言うと、日常会話においては、「会話は一度に一人が話す」ということ、そして「今話している人が話し終えたとき、その発話のなかで次の発話者が指名されていなければ、最初に話し始めた人が次の発話者になる」ということです。例えば、誰かが話している最中に割り込みをして喋りはじめた人がいたとします。私たちはその人に対して、急いで話さなければいけないよっぽどの理由があるのだろう、と理解したり、あるいは、この人はもともと話していた人のことが気に食わないのかな、などと理解するはずです。いずれにせよ、会話に横入りされたときには、「普通とは違う」ことが起こっていることが、誰にもわかります。また、会話の切れ目で誰かと誰かが同時に話し始めてしまったとき、私たちは「あ...」と言って発話をやめたり、「ごめん、どうぞ」と言ったりして、相手に発話の権利を譲ることをあたりまえのように行います。これらから、私たちが、「会話の順番交代」のルールを知っていて、そのルールを使用していることがわかるはずです。 「何をあたりまえのことを!」と思われるかもしれません。しかし、これは私たちの日常生活のありようを捉える大発見です。言うまでもなく、会話は、私たちの社会生活をつくる中心的な活動です。しかし、会話分析という研究領域が生まれる前は、私たちがどのように会話という活動を作っているのか、ほとんど解明されてこなかったのです。 話を授業場面のルールに戻しましょう。いま述べたように、日常会話においては、直前で誰かが指名されていなければ、次には誰もが話し始めることができます。しかし、授業ではどうでしょうか。授業中の先生の話が一区切りついたとして、そこで児童は好きに話し始めることができるでしょうか。おそらくその児童は、「いま先生が話してます」だったり、「発言するときは手を挙げて」などと注意されてしまうでしょう。典型的な授業場面において、児童の発話は、挙手によって立候補し、教師による指名があってはじめて、発言権が渡されます(2)。つまり、日常とは異なった発話のルールが作動する場面、それが授業なのです。 とはいえ、授業中いつでもこのようなルールが作動するわけではありません。なぜなら教室内でも「おしゃべり」はするし、授業の時間内でも子どもが「勝手に」先生に話しかけることが問題なく起きることもあるからです。つまり、

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