「静かにしてくださーい!」-授業場面の作られ方の社会学的考察-(粕谷 圭佑 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
5/9

授業の発話ルールの作動は、教室という「場所」で決まるのでもなければ、授業時間という「時間」で決まるのでもありません。 では、授業の発話ルールは、どのようにして作動するのでしょうか。言い換えれば、日常的な会話のルールから、授業の発話ルールが作動する場面への転換はどのようになされるのでしょうか? 答えは「やりとり(相互行為)によって」です。授業の発話ルールは、教室だから作動するのでもなければ、チャイムがなったから作動するのでもありません。そうではなく、教師がこれから児童全員に向けて話しはじめようとすること、そして、児童たちが教師の話を聞くための条件を整えることで、はじめて「静かにしなくてはならない」授業場面が作られるのです。どちらかが欠けても、この授業場面は成り立ちません。その意味で、授業はやりとり(相互行為)によって作られるのであり、これが、筆者がこの節の冒頭で述べた、授業が「作られる」の意味するものです。 ここまでの議論を整理しましょう。教室のなかでは、日常的な会話のルールが作動している場面から、授業の会話のルールが作動する場面へと、局面が転換することが起きるということ。そして、その局面の転換は、教師と児童の相互行為によって成し遂げられるということ。以上の二点をこれまで論じてきました。 そうすると、次に、ではこの局面の転換はどのように成し遂げられているのか?という問いが浮上してきます。次節ではこの「授業局面の移行」に着目しながら、「静かにしてくださーい!」という発話が何をしているのか考えてみましょう。 3. 「静かにしてくださーい!」は何をしているのか? 次の記述は、筆者が、ある小学校1年生の教室を10月頃に観察した際に記録したメモ(フィールドノーツ)からの抜粋です。 朝の会、先生は健康観察を始める前にざわざわとしていた児童たちに 対して次のような発話をしていた。 先生:はい、いいですか?

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る