「静かにしてくださーい!」-授業場面の作られ方の社会学的考察-(粕谷 圭佑 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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(3秒ほど児童の方を見ながら静止)((児童らはまだ騒がしい)) 児童1:静かにしてくださーい! 児童2:静かにしてくださーい! このあと後方の席にすわっていた児童が次々に「静かにして下さーい」と 声を上げた。 さて、ここで記述されている場面からは何が考えられるでしょうか。「静かにしてくださーい!」が何をしているのか、それが授業の局面の転換とどう関係しているのか、という点から考察してみましょう。 まず、この場面が記録されたのは、朝の会の「健康観察」の前だということから見ていきましょう。このあと行われる「健康観察」は、先生が一人一人児童の名前を読んで、呼ばれた児童が「はい!元気です」などのように、返事と身体の調子を報告する活動です。つまり、この場面のすぐ後には、教師が特定の児童を指名して指名された児童が返事をする、という、先述した授業の会話ルールが用いられるわけです。一方、上の場面では、児童たちはざわついています。つまり、この場面は、「ざわついた」状態から、授業の会話ルールが作動する状態へと、局面を転換しなくてはならない地点に差し掛かっています。 次に、教師の発話に着目してみましょう。ここで先生は「はい、いいですか?」と言っています。「はい、いいですか?」という発話は、それだけを取り出すと、何を意味するのかわかりません(3)。ところが私たちは、この発話から「先生が話し始めようとしている」ということがわかるはずです。その理解は、ざわついている教室の状況、教師という存在が役割として為しうること、このあとに行われるであろう活動(健康観察)などといった知識を動員することで可能となります。それは児童にとっても同様です。児童たちは1年生ですが、10月ともなると、健康観察がどういうやり方で行われるのか、よく知っています。つまり、この発話が為された時点で、授業局面への転換が行われつつあることが、児童たちにもわかりうるものとなっているのです。 ここで注目したいのは、ある児童によって「静かにしてくださーい!」が発話される前に、3秒間のざわつきが継続している点です。この状態からは児童

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