教育における「豊かな体験」とは?-教育哲学からのアプローチ-(浅井 健介 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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教育における「豊かな体験」とは? -教育哲学からのアプローチ- 奈良教育大学学校教育講座(教育学)浅井 健介 はじめに みなさんは「教育哲学」と聞いて何を思い浮かべますか? 「哲学」と聞いて、正解のない問題を無意味に考えつづけるあまり役に立たない学問を想像した人もいるかもしれません。しかし、よく考えてみると、私たちの日常は正解のない問いで溢れています。今日の夕食をどうするかといった些細な問いにすら正解はないですし、恋人とどのように付き合おうか、よい教育とは何か、どうしたら生徒が主体的に学んだことになるのかなど、挙げていけばきりがないほどです。もっとも日々の生活では、正解がないからといって立ち止まっているわけにはいきません。場の空気であれ、慣習であれ、個人の偏見であれ、私たちは普段から、分からないなりにも何らかの....考え..に従って答えを出し、滞りなく行動しています。教育哲学とは、教育に関して自分たちが前提にしているその考え..について一度立ち止まって反省し、日々の慌ただしさの中で答えてしまっている問いに取り組み直そうとする試みといえるかもしれません。 このような問い直しをする際に、教育哲学が手がかりにするのは言葉..です。例えば「子供の自主性が大事だ」と聞くとその通りだと思いますが、そのとき「自主性」という言葉で何を考えているのかは人によって違います。ほとんど「放任」に近いことを考えている人もいれば、自主性と教師による介入は矛盾しないと考える人もいます。だとすれば、「子供の自主性を尊重した教育」を行うにも、結局は「自主性」とは何かについての自分なりの考え..や理解を深める作業が必要になります。そしてこの検討作業は、過去の熟練した教育実践家

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