発達の特性と性差-メンタルヘルスとの関連を含めて-(全 有耳 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
2/8

発達の特性と性差 -メンタルヘルスとの関連を含めて- 奈良教育大学教職開発講座全 有耳 1.はじめに 皆さんは発達障害についてご存じでしょうか。発達障害とは、「➀生まれ持った脳機能の特性があること、➁それによって様々な生活場面で困難さがあること」、これらの➀と➁の両方が認められる状態をいいます。知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症(自閉症、高機能自閉症、アスペルガー障害)、注意欠如多動症(注意欠如多動性障害)、限局性学習症(学習障害)等が含まれ、現在は神経発達症と呼ばれるようになっています(アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版による)。 それでは、発達障害とメンタルヘルス(心の健康)との関連について2つの視点からみていきましょう。1つ目は、発達障害でみられる脳機能の特性(以下、「発達の特性」とします)を有する場合には、生活の場面で様々な生きづらさを感じやすくなる結果、二次的に心の健康を害してしまうリスクが高まりやすいことが知られています。例えば、自分の思いがうまく伝えられない、柔軟に考えを変えることが難しく集団行動が苦手、文字の読みに困難さがあり学習を嫌がるようになった結果「怠けている」とみられてしまう等、本人の意図しないところで誤解されたり、否定的な言動を受ける機会が増えることになります。その結果、自信が持てなくなったり、不安が強くなる等です。すなわち、発達の特性による生きづらさは、心の成長や健康の維持に大きく関わっているということになります。 2つ目として、発達の特性はスペクトラム(連続していることを表す)に分布しており、はっきりと特性が認められる人から、少し認められるという人もあって、発達の特性が「ある」か「ない」かで二分することができないという点です。診断の基準に該当しないけれど発達の特性を有する場合には、「グレーゾーン」という表現が使用されることがあります。グレーゾーンの場合には、発達の特性が強くないのだから生きづらさも軽度なんだろうと考えてしまいそ

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る