発達の特性と性差-メンタルヘルスとの関連を含めて-(全 有耳 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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うですが、そうではありません。実はグレーゾーンの人はその特性に気づかれにくいため(本人も周囲の人も)、小さなつまずきが重なる結果、心の不調からくる症状が出現してはじめて気づかれる、ということも少なくありません。例えば、中学2年生のAちゃんは、小学校高学年まで特に問題なく過ごしてきたけれども、中学生になり教室に入ることができなくなったので医師の診察を受けたところ自閉スペクトラム症と不安障害と診断されました。Aちゃんは大変大人しく真面目な性格で、周囲からは優等生ととらえられていましたが、実はコミュニケーションが苦手であったり、柔軟に考えや見方を変えることが苦手で日々生きづらさを感じていたのです。 このように発達の特性がある場合には、その程度に関わらずメンタルヘルスの問題を生じやすいということがわかっています。今回は子どもの発達の特性と性差に関する研究結果を紹介し、メンタルヘルスとの関連について述べたいと思います。 2.乳幼児期の子どもの発達に性差はあるか?少しテーマとはずれますが、まずは広く「子どもの発達」の性差についてみていきましょう。子どもの発達は、外界の様々な刺激を受けながら、脳の神経細胞のネットワーク化により進行します。皆さんは乳幼児の発達的変化をおおまかにでもイメージすることができますか?本稿ではその詳細は省略しますが、一般的に、生後1年を過ぎると自分で歩くことができるようになり、その後2歳くらいにかけて意味のある単語を表出するようになります。また、3歳にかけては着替えをしたり、オムツがとれたりと身辺自立が進みます。4歳以降は集団生活を通して友達とうまく関わることや社会のルールを理解して行動するということができるようになっていきます。一方で、発達のプロセスには個人差が大きいため、我が子の発達の様子を同年齢の子どもと比べて不安になってしまう保護者の方も少なくありません。中でも、「男の子は言葉を話すのが遅い」という文章をよく耳にすることがあります。皆さんも聞かれたことがあるのではないでしょうか。果たして根拠はあるのでしょうか。これについては過去に様々な研究が行われてきましたが、科学的に根拠があるというまでには至っていないというのが現状です。以下のデータは「言葉の発達」に着目したものではありませんが、乳幼児健診のデータからみた発達の性差について紹介します。乳幼児健診の開始は1948年に遡ります。疾病の予防・早期発見や発達のスクリーニング及び育児支援等を目的としたもので、全ての親子が住民票のある自治体で受けることができる行政サービスです。発達のスクリーニングでは、運動発達及び言葉を含む精神発達の状態を確認し、課題が認められた場合には適

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