発達の特性と性差-メンタルヘルスとの関連を含めて-(全 有耳 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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いては、発達項目の通過数及び3つの行動項目群全てにおいて、支援あり群となし群のスコアには有意な差を認めましたが、女児では不注意/多動/衝動性の行動項目にのみ差があるという結果でした。このことから、乳幼児期の発達の課題は、支援あり群の男児で症状がより顕著に認められやすく、逆に女児では支援あり群となし群間での症状の差が目立ちにくいということがわかりました。また、一般的に発達障害の有病率には性差が認められることが知られており、各疾患により差はありますが男児(男性)が多いとされます。今回の対象でみても、支援あり群の男女比は3:1と男児が3倍多いという結果でした。4.発達の特性の性差に関するトピックスと今後求められる方策について前述の著者らが行った研究結果は、乳幼児期の発達の特性は男児でより顕著に認められるために気づかれやすく、その頻度も多いというものでした。それでは女児の場合にはどのような特徴があるのでしょうか。近年、大人になって発達障害の診断を受ける人が増加しており、その中で女性の発達障害がこれまで認識されていたよりも多いという可能性2)、その背景として女性の症状の現れ方が男性とは異なるため気づかれにくいということが指摘されています。例えば注意欠如多動症では男性で多動や衝動性による症状が目立ちやすい一方、女性では不注意を中心とした症状が多いとされます。また、自閉スペクトラム症の女性は適応的な行動を習得することによってその困難さが見えにくく、このことを砂川は「障害をわかりにくくするベールを社会のなかでまとっている」と表現しています3)。「はじめに」のところで述べたように、女性の場合には症状のわかりにくさがあり、その結果心の不調による症状が出現してはじめて発達の特性に気づかれることが少なくないのです。それでは、このような気づかれにくい発達の特性に対して求められるアプローチとはどのようなものでしょうか。発達の特性がスペクトラムに分布することを考慮すると、子どもの言動の背景要因を発達の特性を含め多角的にとらえる視点をもつこと、及び心の健康に対する予防的なアプローチの充実がありますが、学童期以降のメンタルヘルス対策は十分ではないのが現状です。著者らは学校でのメンタルヘルス対策について検討した結果4)、発達の特性の有無に関わらず、メンタルヘルスの視点で全ての児童を対象とした対策を行うことの有用性が明らかとなりました。具体的には、子ども自身が心の健康調査票に回答することにより、周囲が気づく前の段階で困り感への早期介入が可能となること、学校以外の地域の専門機関(多機関・多職種)が協働することにより、学校をプラットホームとしたメンタルヘルス対策を推進していくことが重要であることがわかりました。乳幼児期には乳幼児健診が行われているように、学

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