異文化理解を研究する-日本のイスラームを例として-(小村 明子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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完全に何も信じていないとはいえるのでしょうか。お正月には神社仏閣に行き、何かお願い事があれば願掛けをします。おみくじを引いて一喜一憂しますし、御朱印帳を常に持ち歩いて御朱印集めをしている人もいると思います。こうしたことは「宗教性(スピリチュアリティ)」という言葉で括ることができます。すなわち、日本人は宗教性を持っていますが、特定の宗教団体に所属することや特定の宗教にコミットすることを嫌います。なんとなく宗教的な何かをしているという人が多いといえるのです。こうした現代日本人の宗教性を考えると、イスラームという宗教を理解するにしてもその人の知っている他の宗教と比較することができるのかといえば、その人が「無宗教である」と述べる限りは困難であるといえるでしょう。では、イスラームを他宗教と比較することなく、そのまま理解できるといえるのでしょうか。どのようにイスラームを理解しているのかといえば、更なる研究調査が必要となってくるのです。 5.おわりに 日本社会はすでに多文化社会へと移行しています。日本には数多くのムスリムが暮らしています。そのムスリムの実情を知るために、インタビューや参与観察を行います。ここに記載したことは、日本のイスラームのほんの一部です。日本とイスラームとの出会いは明治時代から始まります。近年の外国人ムスリムの滞日は日本のムスリム人口を増加させることにつながりましたが、日本とイスラームとの関係性の歴史はそれ以前からあるのです。また、滞日外国人ムスリム数の増加は様々な課題を生み出しています。今後も課題が出てくれば、どうしてそうなったのか、どこが問題点なのか、などを調査することとなります。 実際の状況を知って理解することが本当の意味での異文化理解となります。また、こうした研究成果を異文化理解の講義として学ぶことで、皆さんの将来につながっていく、すなわち皆さんが学んだことが社会の礎となり、より良い社会の構築へとつながっていくのです。

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