異文化理解を研究する-日本のイスラームを例として-(小村 明子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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います。観光地ではムスリム女性の象徴でもあるスカーフを頭に被った人たちを見ることができます。ムスリム観光客の増加は、ムスリム対応を迫られる状況を作りました。その理由は、ムスリムは豚由来の食材や飲酒、またアルコールを材料にした調味料などを口にすることが禁止されているからです。そこで、観光地や大都市では彼らが安心安全に飲食できる「ハラール(ハラル)」対応の食事を提供するレストランが増えています。このハラールについてはニュース報道で何度も取り上げられているので、多くの人たちが知っていると思います。 日本でイスラームを身近に感じるようになったのは、ここ近年のことだと思われることでしょう。ですが既に太平洋戦争前には、植民地政策に活かすために日本政府によって「回教政策(イスラーム政策)」が始まっており、イスラーム研究が行われていました。日本はこの時から積極的にイスラームを知ろうとしていたわけです。 ところが現在の日本社会では、ムスリムの姿をよく見かけるようになったにもかかわらず、イスラームを身近に感じたことはないからイスラームといわれてもよく知らないという人もいます。なぜでしょうか。一般的に、イスラームには「テロ」などの負のイメージがあることがいわれています。それゆえに、無意識のうちに避けているのかもしれません。また、宗教それ自体に対するイメージも宗教団体による社会事件を思い起こさせることからあまり良いものではないこともいわれています。 2.イスラームとは何か では、実際にイスラームという宗教はどのような宗教でしょうか。皆さんは中東地域の宗教はイスラームだということを学んでいると思います。預言者ムハンマドによって開かれた一人の神を信じる宗教で、スンナ(スンニ)派とシーア派に分かれている、イスラーム暦の9月にあたるラマダーン月には日中断食をする、現在のサウジアラビア王国にあるメッカ(アラビア語では「マッカ」)に巡礼に行く。これが学校で教わっていることではないでしょうか。ですが、イスラームという宗教はこれだけではありません。 イスラームという宗教教義の根底には「六信五行」という、ムスリムが信じなければならない6つの項目と、義務として行わねばならない5つの行為があ

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