異文化理解を研究する-日本のイスラームを例として-(小村 明子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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ただ、実際に日本のムスリム人口は増加しています。冒頭でも述べましたように、日本はムスリム留学生やムスリムの外国人労働者を積極的に受け入れているからです。では、どのようにして彼らの実状を知ることができるのでしょうか。 私はこれまでに日本のムスリムたちにインタビューをしてきました。先ほど述べた文化人類学による調査です。労働力として来日した外国人ムスリムに話を聞くと、ごく普通の日常生活を送っています。何か苦労があるかと聞くと、仕事がきついという話が多く、また休日はゆっくり寝たいという人もいます。ムスリム留学生は日本を満喫しています。和装で街を出歩いたり、美味しいスイーツのお店があると聞けば、友人と一緒に行ったりしています。 では、日本人ムスリムはどうでしょうか。主に、マスジドに通うイスラームに改宗したムスリム女性たちから聞いたところでは、ムスリム男性と付き合うようになってからイスラームを知り、学ぶうちに改宗したという日本人女性や、結婚をきっかけとして改宗したという人もいます。イスラームに改宗する理由の多くは、ムスリムとの交際や結婚がきっかけとなっています。ですが、しばらくすると彼女たちの姿をマスジドで見かけなくなります。それは、子どもが小さいから、仕事が忙しいからという理由からですが、中には離婚したことを理由に、イスラームから離れたことを理由とする人もいました。 このように、実際にインタビューすることで、ムスリムの実状を知ることにつながります。ただ、ここで気になったことがあります。それは離婚したからイスラームを離れると考えることです。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言い回しがありますから、元の配偶者の宗教であるイスラームから離れたいという気持ちが生まれて当然なのかもしれません。ですがイスラームに改宗するということは、自分の一生をイスラームという宗教に捧げることを意味します。安易な考えでイスラームに改宗できるものではないのです。たとえムスリムの配偶者と離婚することでイスラームを続ける動機がなくなったとしても、信仰告白した限りにおいては、ムスリムであり続けることになります。 離婚した女性たちは「イスラームから離れる」といっていますが、離れることによりイスラームの環境に居ることがなくなるために、ムスリムとしての自己(アイデンティティ)は薄らいでいってしまいます。いいかえれば、「ムスリ

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