「楽譜の裏側に隠されたもの」に迫ろう-民謡を取り入れたピアノ独奏曲を例に-(鈴木 啓資 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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2.ハンガリーにおける⺠謡収集 ハンガリーにおいて⺠謡(⺠俗⾳楽)の収集が始められたのは1782年のことであり、この年の新聞誌上において古い歌を収集、投稿するように呼びかけられたことであるとされています。しかし、この時代の収集では実地調査は⾏われず、⾝近な⼈が歌っている旋律を書き留めたり、地⽅に住んでいる知⼈に書き送るように頼んだりしていた程度でした。19世紀になってもこの状況は変わりませんでしたが、1877年にトーマス・エディソン Thomas Edison(1847-1931)によって蝋管式蓄⾳機(フォノグラフ)が発明されたことが、⺠俗⾳楽研究に⼤きな影響を与えました。それまで⼝頭伝承が基本であった⺠俗⾳楽を、記録して残せるようになったのです。 この蓄⾳機を⽤いて本格的に⺠謡収集を⾏った⼈物として、ベーラ・ヴィカール Béla Vikár(1859-1945)を挙げられます。彼は⾔語学者であったため、⾳楽よりも歌詞に着⽬をしていましたが、発明されたばかりの蓄⾳機を⽤いて、⺠謡などの収集を⾏いました。彼の後を追って⺠俗⾳楽研究を⾏ったのが、作曲家として活躍したベーラ・バルトーク Béla Bartók(1881-1945)とゾルターン・コダーイ Kodály Zoltán(1882-1967)です。彼らは『ハンガリー⺠謡⼤観 A Magyar Népzene Tára』や『ハンガリーの⺠俗⾳楽 A Magyar Népzene』といった⽂献を残し、ハンガリーにおける⺠俗⾳楽研究の基礎を作り上げました。このように、⺠謡の収集は1800年代後半になってから、より活発になったと⾔えるでしょう。 3.⺠謡を⽤いた⾳楽について ここからは⺠謡を⽤いた⾳楽について考えてみます。今回はハンガリーの⾳楽家、エルネー・ドホナーニ Ernő Dohnányi(1877-1960)がハンガリー⺠謡を⽤いて作った、《ハンガリー牧歌 Ruralia Hungarica》Op.32aを題材とし、その演奏法について出版された楽譜と⽤いられた元の⺠謡から考えていきましょう。この楽曲は⺠謡の旋律がそのまま活かされており、⽐較的わかりやすい楽曲となっています。なお、《ハンガリー牧歌》は全7曲からなる曲ですが、今回は4つの⺠謡が⽤いられている

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