「楽譜の裏側に隠されたもの」に迫ろう-民謡を取り入れたピアノ独奏曲を例に-(鈴木 啓資 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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この⺠謡の旋律が、譜例1の第1〜16⼩節にそのまま使われていることに気づいていただけるのではないかと思います。歌詞は3番までありますが、ここでは1番の歌詞に着⽬してみましょう。 原語 和訳 Én Istenem, add megérnem, Kit szeretek, avval élnem. Mer ha aztat meg nem adod, Felakasztom én magamot. 私の神さま、お願いです 私は愛する⼈と⽣きたい 愛する⼈を与えてくださらないのなら 私は⾸を吊る (パップ晶⼦ 訳) いかがでしょうか。この部分には、「愛する⼈と⽣きていけないのであれば私は⾸を吊る」という、かなり衝撃的な内容の⺠謡が⽤いられているのです。このことを考えると、きっとこの曲を軽く弾こうという気にはならないのではないでしょうか。これこそが楽譜には書かれておらず、原曲の⺠謡を知ってこそ初めて理解できることなのです。 なお、ドホナーニは⺠謡を⽤いて作曲する際に、原曲を尊重していましたので、この歌詞を分かったうえで⽤いているはずです。この《ハンガリー牧歌》第2曲に⽤いられたすべての⺠謡が失恋関係のものであることからも、ドホナーニが歌詞を知らずに適当に選んだ⺠謡を⽤いたとは⾔え

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