生きものとの関わりと子どもの発達-手のひらの中の命と出会う-(藤崎 亜由子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
4/10

為に意図を読みとったといいます。このように⼈間は⼈間以外の対象に「⼼」を⾒出す⼒を発達の早期から発揮し始めるといえるでしょう。 3. 動物の⼼を理解し始める⼦どもたち 事例1:ネコと出会った1歳の⼥の⼦S お正⽉に祖⺟の家に⾏ったときに、S(1歳1ヶ⽉)はネコと会いました。興味津々で、⾃分と同じような⼤きさで⽬の前を横切る⽣きものに⽬を丸くして、触ろうとよちよち近寄ります。ネコが⽴ち⽌まり⽬が合うと、⼿を伸ばし、⼿のひらをにぎにぎとしながら、「にゃー」(周りの⼤⼈が、「にゃーがいるね」と声をかけていたので、にゃーと⾔ったようです)と呼びかけます。ネコのほうは、新しく出会う⽣きものに警戒しつつ、すっとよけるのでなかなか触らせてはもらえません。 しばらくして、Sはネコが布団で寝ているところを発⾒し近寄ります。すぐには触らずに「にゃー」といいながら、Sは地⾯に⼿を付けて、ネコの顔を覗きこみます。それからおもむろに⼿を伸ばして背中のあたりをそっと触ります。ネコは少し警戒し、顔をあげ前脚を⽴てて威嚇のポーズをとります。すると、Sもすっと警戒して⼿をひっこめます。また触ろうと⼿を出すと、今度は軽くネコパンチをされて⼿をひっこめます。何回か繰り返しているとネコが起き上がり座り直し、じっとSを⾒据えました。Sはその⽬⼒にすごすごと後ずさりして、それ以上⼿を出しませんでした。 Sはネコがどういう動物かもわかりません。でも、ネコの「もう触るなよ」というジェスチャーがSには伝わったようです。また、Sの⾏動には、明らかに⼈間の⼦どもや⼤⼈に対するのとは異なる要素が含まれています。にゃーと⾔いつつ⼿を振る⾏動は⼈間に対する振る舞いではみられないものでした。S(1歳1ヶ⽉)は、⼈間とは異なるものの意図的な活動主体としてネコを認識し関わろうとしていたのかもしれません。 ⿇⽣(2007)は、⼈間の⼦どもは、顔をもち意図的な動きをする対象を「意図をもつ⽣きもの」という⼤きな枠組みでまずは理解し、そこから

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る