生きものとの関わりと子どもの発達-手のひらの中の命と出会う-(藤崎 亜由子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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少なくとも1歳3ヶ⽉ごろまでには「⼈間学(素朴⼼理学)」と「⽣き物学(素朴⽣物学)」とが分化し始めるのではないかと議論しています。5〜6歳にもなると、⼦どもたちは表象的な⼼という概念を獲得し、⼈間の⾏動をその背景にある⼼という観点から理解するようになります(これを⼼の理論の獲得といいます。急いで駅に向かって⾛っている⼈を⾒ると、遅刻しそうで焦っているのかな?と、その⾏動を⼼の側⾯から理解しようとしますよね)。さらに、⽣物は⽣まれ、⾷べ、呼吸をし、成⻑するというような特徴をもつものとして、素朴ながら⽣物特有の理論を体系的に理解し始めます。このように、⼈間の⼼に対する理解、そして⽣物に関する理解を急激に深めていく幼児期に、⼦どもたちは「動物の⼼」というものを、どのように理解していくのでしょうか。 都市化された⽣活の中では、⼦どもたちが初めて⾝近に接するのが幼稚園や保育所の動物であることも少なくありません。そこで3〜6歳の⼦どもたちを対象に、ウサギ・カメ・キンギョという⽇常的に関わっている園の動物の「⼼」をどのように考えているのかインタビュー調査を⾏いました(藤崎, 2005)。その結果、年齢があがるとともに⽣物学的な知識が増え、過度な擬⼈的認識(動物が絵本を読みたいと思ったり、テレビの主⼈公をかっこいいと思ったりする)は減少していきました(年少児3〜8割、年⻑児2〜4割)。その⼀⽅で、餌をあげると喜んだり、仲間に噛まれると怒るという⼦どもたちは増えていきました(年⻑児では8〜9割)。ぱくっと餌をくわえるカメの⾏動や、仲間を追いかけ回すウサギの⾏動の背景に「⼼」が存在することを、⼦どもたちは確信していくといえるでしょう(本当に「⼼」があるかは別として)。さらに6歳児では、ウサギは怒るがカメやキンギョは怒らないというように、動物の種類による区別がみられ始めていました。これらの結果は、就学前の⼦どもたちもウサギらしさ・カメらしさ・キンギョらしさに応じた「⼼」の理解の仕⽅を学んでいくことを⽰しています。 では、動物の「⼼」に対する認識だけでなく、動物への関わり⽅も加齢とともに変化するのでしょうか。幼稚園でおこわなれているウサギの飼育活動を観察した結果(藤崎, 2004)、年少児は逃げるウサギを追いかけ

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