生きものとの関わりと子どもの発達-手のひらの中の命と出会う-(藤崎 亜由子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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たり餌を投げたりという動くモノに対する素朴な反応が多い⼀⽅で、年⻑児になると慎重に近寄るなどウサギの習性に合わせて接するようになりました。さらに興味深いことに、年⻑の⼦どもたちのほうが年少の⼦に⽐べて、「こっちの⽅が柔らかいから、よく噛んで⾷べるんだよー」「1⼈で1つ⾷べたらあかんやん。みんなで⾷べるんやから」などと、ウサギに対してまるで⼈間に対するかのように語りかけることが多かったのです。 実は、この⾏動はこれまで⾏われてきた調査とは⽭盾する結果です。「動物のことば」に対する幼児の認識を調べた研究の結果(藤崎, 2011)では、ウサギと⾃分とが話せるかを問われて「はい」と回答したのは年少児(3歳)では35%、年⻑児(5歳)ではわずか12%でした。つまり年⻑の⼦どもたちは、ウサギと⾃分とはおしゃべりできないと頭ではわかっているにも関わらず、実際のやりとりの中では頻繁にウサギに対して話しかけていたのです。 以上の結果から、年⻑児でみられるような擬⼈化は、⽣物学的な知識が乏しく⼈間との類推に頼らざるをえない幼い⼦どもたちの擬⼈化(⼈間はお⾵呂に⼊るのが好きだから、ウサギもお⾵呂が好きだろうなど)(稲垣・波多野, 2005)とは区別する必要があると考えられます。年⻑の⼦どもたちはウサギと⼈間とを混同しているのではなく、ウサギについて無知でもありません。どうやら、適切な⽣物学的な知識を獲得しつつも、それと両⽴できる「感情移⼊的な擬⼈化」があると考えたほうが納得できます。⼤⼈でも⼈形(物体)や⾵にそよぐ⽊々(植物)にも「⼼」が宿っているように感じる瞬間があります。ウサギに⾔葉が通じると本気で思っていなくてもつい話しかけてしまう、本当かどうかは確かではないけれども、動物たちも考え事をしたり夢を⾒たりという豊かな⼼的⽣活をしているかもしれないと考えてしまう。このような曖昧で揺れ動く境界的な⼈間の認識を解明していくことは、⼈間という動物のおもしろさを理解することにつながっていくのです。 上述した「動物のことば」に対する認識を探った調査(藤崎,2011)では、ウサギと⾃分とは話せないとの認識をもつ⼦が加齢とともに増えていました。では、ウサギとウサギではどうでしょうか? 年少の⼦どもた

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