生きものとの関わりと子どもの発達-手のひらの中の命と出会う-(藤崎 亜由子 著)- 奈良教育大学 出版会 ー
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ちは、⾃分とウサギが話せないと同時に、ウサギとウサギも話しができないと考える⼦どもたちが約半数(45%)存在していました。⼀⽅で、年⻑児になると、⾃分とウサギでは話ができないが、ウサギとウサギは話ができると考える⼦が多数を占めました(76%)。この結果は、⼈間と共通する点をもちつつも異なる論理で⽣きる動物たちの多様な世界を思い描く⼒の育ちを感じさせます。もしかしたら⾃分にはわからない⽅法で動物たちは会話をしているのかもしれない。もしかしたら、動物たちも何かを感じ、何かを考え、夢を⾒たり、思い出に耽ったりしているのかもしれない。⼈間には⼈間の⾔葉があるように、動物には動物の「ことば」があるかもしれないという認識が発達してくるのです。 上述の年⻑児が⽰したような感情移⼊的な擬⼈化は、⼈間中⼼的な⼀元的な世界観から、多様な動物が織りなす多重の世界という新たな世界観を獲得する過程として捉え直すとおもしろいかもしれません。地球規模での持続可能な社会を⽬指す現代においては、国境を越え、世代を超え、種を超えて、他者の視点で世界をみることが必要となります。⾝近な⽣きものたちの視点から地球の今や未来を考える⼒をどのように育めるのかは今後の⼤きな研究テーマです。 4.⾍、⾝近にいる異質な他者との出会い 以上でみてきたペット動物や学校飼育動物は、ある意味、⼈間とともに暮らす⼈間⽂化の内側にいる存在です。⼀⽅で、⾍(昆⾍をはじめとしたクモやダンゴムシ、カタツムリ、カエルなどの⼩動物の総称)は好き嫌いに関わらず都市化された社会でも避けて通ることのできない「野⽣」の⽣きものです。⾍は⼈間が⾁眼で眼にすることのできる最⼩の⽣命であり、ライフサイクルが短いが故に⽣と死を間近に⾒せてくれる貴重な存在です。時には、「命を⼤切に」と⾔いつつ、保育者も蚊やアリを叩きつぶすこともあり、慈しむ対象としてのペット動物とは異なる⽣きものとの付き合い⽅を教えてくれます。 何より⾍は⼦どもたちにとって格好の遊び相⼿です。⾃然教育というと、キャンプに出掛けたり、⼭や海に⾏ったりという特別な教育が必要だ

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