ブックタイトルならやま2015夏号

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概要

ならやま2015夏号

『湖月抄』(奈良教育大学図書館所蔵、913.361-14)択して付しており、それまでの諸注を集成したものとなっています。このような書物をみると、『源氏物語』が確かに各時代の人々によって読み継がれてきたものであるということを、少しイメージしやすくなるのではないでしょうか。また、写真にみえる文字にも注目したいところです。現代の私たちが日常的に目にしたり書いたりする文字とは字形などが大きく異なっています。古典の本文を活字で読むことに慣れてしまっていると、それがもともとこのようなくずし字で書かれて伝わってきたということを見過ごしがちになるような気がします。ちなみに、写真の『湖月抄』は印刷による書物ですが、江戸時代に印刷技術が発達して出版文化が形成されるまで、書物は基本的に手で書き写すことによって広まり、受け継がれてきました。そのような事実も、また、それゆえに生じうる誤写などのような現象についても、教科書などで既に活字化されたものにばかり触れていると、やはり見落としてしまいかねないのではないかと思います。従来の古典教育(学習)では、『源氏物語』などの古典について、古くから読み継がれてきたものであるということを前提に、その魅力を探るといった立場から、作品自体を読むことに重きが置かれ、ほとんどの時間が費やされてきたような印象があります。勿論、作品の内容を捉えることも重要なことですが、一方で、そのような作品がどのように読み継がれてきたのか、受け継がれてきたのか、という点に目を向けることで学べる事柄も少なくないのではないでしょうか。そのような古典の享受・受容、継承に関する学習の問題についても、前述の『源氏物語』の人間関係とともに研究テーマとしてきました。今後について学習指導要領において「伝統や文化に関する教育の充実」が掲げられて以降、古典教育(学習)の果たすべき役割はより重要視されるようになってきました。2011年度からは小学校でも古典教育(学習)がおこなわれています。中学校・高等学校での古典教育(学習)もそれを踏まえたものとなっていくでしょう。古典の魅力や価値について、作品自体の内容からも勿論ですが、それ以外の観点からも多角的にとらえていくことが、ますます必要になってくるのではないでしょうか。奈良教育大学に勤務することとなった昨年度以降、現職の先生方や教員志望の学生の皆さんと接する機会により多く恵まれるようになりました。そのような環境をいかして、『源氏物語』を含む数々の古典についてより深く学び合い、広くその魅力や価値を探り、そして、それらを教育(学習)にいかす方法などについて、議論を重ねながら模索していきたいと考えています。SUMMER 2015ならやま_12