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概要

ならやま2017秋号

毛筆による絵画指導を行うという実践を展開しています。この取り組みの特徴は、明治時代のお手本を臨写する技量を高めることのみを意図したものではなく、児童が主体的に運筆方法や描く順序を思考する点にあります。単なる作業として臨写するのではなく、筆先の感覚に集中して墨の濃淡だけでモチーフを再現したり立体感を表現したりする活動は、児童にとっては細かい判断の連続となります。一見、臨写による教育は児童の創造性が制限されるように捉えられがちですが、授業設計しだいでは思考力や判断力を育成するのにふさわしい深い学びを伴った活動となる可能性をもっているといえます。現在の小学校に明治時代の教育方法を持ちこんだ授業実践研究の成果は、研究論文や国際学会等で発表しています。今年8月に大韓民国・大邱で開催された国際美術教育学会では、これまでの研究を総括する口頭発表を行いました。発表後には多くの質問が寄せられるとともに、各国の研究者による口頭発表からは「どのようにして自国の伝統文化を活用して現代に必要とされる資質・能力を育てるのか」という点に関心があることがわかりました。今年は次期学習指導要領が公示され、教育現場や関係者の方々からは「これまでと何が変わったのか」という点に注目が集まっています。美術教育を研究している立場としては、今後も時代に合わせて視点を変化させていくことの必要性と、伝統の中から新しい価値を見出すことの大切さを念頭に置き、よりよい教育を創造していきたいと考えています。国際美術教育学会(35th World Congress of the Int'l Society forEducation through Art)における口頭発表(2017年)付記:本稿の内容は、下記の研究論文の内容に基づいています。・竹内晋平「京都府画学校関係者による毛筆画教育への関与(2)-『玉泉習画帖』に掲載されたモチーフの意味-」、『美術教育学』第38号、2017年(公益財団法人DNP文化振興財団「グラフィック文化に関する学術研究助成」による)・竹内晋平「明治期毛筆画教科書『玉泉習画帖』にみられる図画教育観-京都市立芸術大学所蔵の粉本群(望月玉泉筆)との図像比較を通して-(教科書研究奨励金交付論文)」、『中研紀要教科書フォーラム』第12号、2014年(公益財団法人中央教育研究所「教科書研究奨励金」による)プロフィール美術教育講座たけうち准教授竹内しんぺい晋平専門は、美術科教育(授業実践研究、美術教育史)、彫刻制作。京都市立芸術大学美術研究科博士(後期)課程修了(2013)。博士(美術)。京都市立小学校教諭等を経て、2012年より現職。AUTUMN 2017ならやま_12