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概要

ならやま2018夏号

クローズアップ声楽は自分との戦い声という楽器と表現私は大学時代から19世紀のイタリアオペラを中心に演奏法の研究をしてきました。私の声種はテノールですが、イタリアオペラを歌うとなると普段の生活では出すことのない高音域をマイクを使わず実声で歌わなければなりません。さらに歌っている時間も長いので強い精神力と集中力と体力、そして訓練された発声法が必要となります。それらの能力を十分に発揮するには身体の健康を維持することがとても大切になってきます。あまり気にし過ぎてもいけませんが風邪を引いてしまっては歌えるものも歌えません。弦が錆びついて今にも切れそうなギターで演奏するようなものです。楽器をメンテナンスしなくてはいけないのと同じように歌い手は自分の楽器となる身体をメンテナンスしなければなりません。メンテナンスができることも含めて声楽家と言えるでしょう。声楽を続けることは一生自分との戦いなのです。声という楽器は十人十色であって10人いれば10の楽器、100人いれば100の楽器になり、すべて違う一つひとつ個性のある楽器です。また心身の成長とともに変化して行く楽器とも言えます。声とは自分の性格が出るもので自信のある人は強くはっきりした声になりますし、丁寧な人は丁寧に、ガサツな人はガサツな声に、普段物静かでも芯を持った人は声にその説得力が出ます。そんな一人ひとり違う声に出会うことはとても楽しいことですし、その人の楽器作りを一緒にしていくことはとても大変な作業ですが、良い楽器の響きを出した時の感動はそれに勝ります。声楽作品の大半には歌詞があり、曲があります。自分という楽器を用いて、言葉に秘められた想いと、そこに曲をつけた作曲家の想いを楽譜から読み取り表現します。しかし表現するにはその音が出るというレベルの先まで行かないことにはその音を出すのに必死で到底表現にまで及びません。声という楽器作りは作品を表現し伝えるためにもっとも重要な作業と言えます。上:恐竜の化石の下で子供と大人のためのコンサート右:入賞者記念コンサート11_SUMMER 2018ならやま