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概要

ならやま 2019 秋

培養の様子植物の増殖についてまず、植物の増殖方法について簡単に説明すると、種子繁殖(種子を形成して増殖する方法)と栄養繁殖(クローン増殖のことで、株分けや挿木がイメージしやすいと思います)に分けることができ、私は主に栄養繁殖について研究してきました。栄養繁殖には、組織培養という方法もあり少しテクニックが必要ですが、植物の一部(数mm~数cm)から植物体を再生できます。また、組織培養は遺伝子組み換え植物の作出に必要な技術であり幅広い植物種で研究が行われています。私は、数多い植物の中からラン科植物に興味を持ち、その増殖に携わってきました。ラン科植物は、コチョウランやシンビジュームなどに代表されるような魅力的な花を咲かせるものやフウランやシュンランなど葉の変化や花の香りを観賞するものもあり、世界中で広く栽培される植物です。しかし、ラン科植物は一般的に年間2、3倍程度しか増えず増殖効率はとても低いため、増殖方法に関する研究が数多く行われています。また、園芸利用を目的に自生するものを乱獲されることがあり、一部は絶滅の危機に瀕している種類もあります。ラン科植物の増殖では、日本の野生ランであるフウラン、ウチョウラン、サギソウを研究対象として増殖方法の確立を目指しました。この研究では、組織培養の過程で起こる組織の褐変現象(植物組織を切断すると切断面が茶色に変色する現象で、培養物が枯死する原因になります)が課題となり、さまざまな解決方法を検討しました。研究では、試行錯誤を繰り返すうちに植物の生理過程から褐変抑制の手がかりを見つけて、草本植物の組織培養における褐変抑制方法を確立できました。私が研究対象としたラン科植物は、1年間当たり葉を2から3枚展葉する程度で比較的成長がゆっくりしていたため実験に時間がかかりました。しかし、研究活動を通してじっくりと植物を観察することができ、組織培養で植物が再分化(植物体の再生)する過程やその変化する姿にとても感動し興味が湧いて研究を続けることができました。植物の増殖について、ラン科植物以外では、トマトやナスなど野菜の栄養繁殖効率の向上や樹木の挿木による増殖などについても研究してきました。フウランの花再分化した植物体AUTUMN 2019ならやま_10