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概要

ならやま 2020 春

国際漢学翻訳家大会にてライフワークとしての中国古典の翻訳大学では未知の言語を学ぼうと中国語を専攻しました。講読が何より好きだったので、なかでも最も重厚なテキストを扱う経学を専門に選びました。経学とは儒教の経典の解釈学です。これについて語り出すととてもこの数ページでは収まりません。ここでは私が翻訳している『経学歴史』についてだけ触れます。この本は二千数百年にわたる経典解釈の歴史をまとめたものです。この翻訳には既に20年以上の歳月を費やしていますが、まだ完成していません。決して怠けているわけではありません。時間がかかるのです。一行を訳すのに丸一日かかることもしばしばです。というのは、その一行に二千年分の思考が凝縮されているからです。それを紐解くのに何冊もの本に当たります。恐ろしくコスパの悪い学問です。ちなみに元号は経学が生み出したものです。日本の元号もこれまではほとんどが儒教の経典から選ばれていました。国際漢学翻訳家大会での思い出をさまざまな言語に翻訳している世界中の翻訳者を中国側が招待するという素晴らしいものでした。私の発表では『経学歴史』翻訳20年の苦労話も交えました。発表が終わると北京大学の先生から、中国の学生も読まない本を日本語に翻訳してくれて本当にありがたい、と握手を求められました。ささやかですが、こうした共感が研究を進めていくうえで心の支えになります。留学のすすめ学生の間にぜひ実現してほしいのが留学です。留学は学生の間しかできません(社会に出て仕事を辞めるなどの一大決心をすれば別ですが)。学生時代の留学は大きく可能性を広げてくれます。私は台湾に留学しました。これまでの自分の人生を振り返ってみて、留学の一年間ほど楽しかったときはありません。何より日本を出て、初めてまともに呼吸ができたような気がしました。今はこうやって日本で暮らしていますが、当時はもうこのままここにいようと思っていました。そういう可能性が開けていることに希望を見ていました。2014年、北京で開かれた「国際漢学翻訳家大会」という国際会議に参加しました。その会議は、中国の古典SPRING 2020ならやま_10