ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

ならやま 2020秋号

クローズアップ+本学教員の研究と、研究室をそれぞれ紹介します。地域を学び、地域で学ぶ学校教育講座いたばし教授板橋たかゆき孝幸学生時代でなければできないこと毎年1回生の授業を担当していると、学生時代でなければできないことをしたいと話す学生がたくさんいます。私は大学に入学した時、自転車での日本全国一周を目標として考えました。社会人になると、大学生の春休みや夏休みのような長期間のまとまった休みを取ることは難しいものです。単にツーリングやキャンプが好きだったからでしたが、これが将来の仕事を方向付けました。在学中にほぼ全都道府県を走り、様々な土地の文化に触れることができました。教員志望であった私は、こうした地域の文化や事象を学習内容に取り入れることができたら、単に教科書を使って無味乾燥な勉強をするよりもずっと楽しく深く社会のことを学べるようになるのではないかとペダルを踏みながら考えました。このような経験から、地域事象をどのように学習内容に組み込むか、地域の学習を通してどのような子どもたちを育てるか、といった問題意識を持つようになったのです。日本全国一周と研究テーマの結合卒業論文では歴史に関心が強かったこともあり、地域学習の源流はどこにあるのかと時代をさかのぼって昭和戦前期の郷土教育運動に行き着き、地元の県市町村立図書館をめぐって各地で作られた郷土読本を収集しました。集めた郷土読本を横並びに比較してみると、現在小学校社会科第3・4学年用として各地で編集されている地域学習副読本よりも、はるかにおもしろいものでした。現代の地域学習副読本は学習指導要領に縛られているため、一部地域的な差異はありますが、どこでも似たような内容です。一方で、昭和戦前期の郷土読本はそうした縛りがなかったため、各地で様々な内容が設定されていました。将来の地域を担う子どもたちに何を教えようとしたのか、それぞれの教員や地域の思いが詰め込まれているように感じました。こうした経験が郷土教育の歴史を研究するきっかけとなり、いまだにこれに関わる研究を続けています。自分自身が各地を旅し、様々な土地を見る機会がなければ、それほど真剣にこうしたテーマに取り組もうとは思わなかったでしょう。入学当初は単純に自転車で全国一周したいというものでしたが、次第に学習以外の目標として掲げたものが将来の夢や仕事に結びついていったのです。職に就いてから役立つかもしれないと、将来を見据えて準備をすることは確かに大事です。ただ、一見遠回りに見えるかもしれませんが、思いっきり自分がやりたいことに取り組んで将来の夢や目標との重なりに気づいていくのも、時間的にゆとりがある学生時代だからこその魅力ではないでしょうか。板橋孝幸『近代日本郷土教育実践史研究』風間書房、2020年AUTUMN 2020ならやま_10