ブックタイトルならやま2022年春号

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概要

ならやま2022年春号

特集理事長・学長対談ることのできる先生を育てなければならない。学生は、在学中に様々な感動体験をしていると思いますが、それが自らをさらに豊かにしていくものであるということ、だから、もっと主体的に能動的にチャレンジしていくことが大切であるということ。もし、そういうことに気がついていないとしたら、それを教えなければならないと思うのですね。薄っぺらな感動みたいなものを子どもに語っていても、今の子どもには伝わらなくて、先生自身が「すごいんだよ、これは」と自分の体験を元にした言葉を使って伝えないと、こんなに情報があふれている中、今の子どもたちは反応しないと思うんです。そうしたときに、本学の学生にとって根本的な支えになるようなものは何だろうかなって思うんですね。私のもうひとりの師から、「俊也君、哲学は大事よ」と言われたことがあります。それは、私が大学に入って、その中学校の恩師を訪ねたときに言われたんですね。哲学者についてたくさん学ぶということもあるのかもしれないけれど、理念というか、何のために何をするかとか、その考え方に気づくことが哲学だと。それを今になって実感しますね。榊:それは大事なポイントですね。体験したり、学んで得られたことを煮詰めていき、その本質まで行きつけば、哲学とか信念とかになるのですが、煮詰まる前の原体験を豊かにもつことがすごく大事ですね。人間は夕焼けを見てとてもきれいだと感じたとき、明日もまた見たいと思ったり、その景色を絵にしたいとか思いますよね。さらに夕焼け空の下で、楽しい気持ちになり、音楽が聞こえてくるとか、歌を歌ってみたくなるとか、そうした喜びを充分に実感することが大事ですね。そうした体験は、家で味わったり、学校で与えられたり、友達同士で見つけたりするわけですが、それが充分であってほしいですね。宮下先生が小学生時代に聞かれた、「算数は数学より難しい」という先生からの言葉は、生徒にとっては大きな励ましになり、感動につながる教育上の体験ですね。宮下:なるほど、そうですね。原体験が教師を育て、子どもに感動を与えることができるのですね。榊:子どもたちは、先生から何かについて説明を聞いたときに、よく理解できずに腑に落ちないとか、引っかかることが少なくないと思います。そうしたときに、先生が、引っかかるのには充分理由があると思うか、理解できないのは勉強不足のためだと思うかで、随分違いが出てきますよね。本当に物事を深く考えれば、どんなことにも疑問が生じ、すべてに引っ掛かるはずです。多くの人は分かったふりをしているだけで、よく考える人はみんな引っかかるはずですよ。実は研究の世界では、疑問を感じたり、つまづく力がすごいパワーになるんです。どうも納得できないという感覚が、実は未解決の問題の存在を示唆しているんですね。理解できないと感じるのは自分だけかもしれない気がしますが、それなりの理由があるはずです。よく調べてみると、他の人も実は理解できていないことが多くあり、その場合には、大問題の発見の糸口になる可能性があるわけです。加藤:「引っかかって、つまづく」、そのとき、「なぜ、引っかかるのか」「なぜ、納得できないのか」を考える。つまづくのを自分のせいにしない。榊:研究では、何年間かけて調べても答えが見つからないことが多くあり、それに屈することなく取り組むことが大切ですが、そうした研究の機会が、教育大学では必ずしも多くはないかもしれません。そのために、しっかり学べば、何でもよく理解できるはず、という思い込みが生じやすいかもしれません。もしそうであれば、少しまずいと思います。先生方は、いろんな事柄をしっかり、子どもたちに教え、伝えなくてはいけないので、知識の伝達に努力されるんですけれども、既存の知識のちょっと先には分からないことがたくさんあるという感覚を多くの先生に持っていただきたいと思っているんです。加藤:「何でこんな簡単で明確なことが分からないの」って言ってしまう先生と、子どもがちょっと疑問に思ったとき、「ああ、疑問に思うのも無理もない。もうちょっと奥に行くと、実はその先はもう分からない3_SPRING 2022ならやま