ブックタイトルならやま2022年秋号

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概要

ならやま2022年秋号

クローズアップ+本学教員の研究と、研究室をそれぞれ紹介します。ふであと筆跡と対話するかや美術教育講座萱のり子教授どのような筆跡がなぜ美しいのか筆跡と対話する書の作品を見て「よく分からない」と感じたことはないでしょうか。手書きの機会が減少した近年は、古い時代の書体や崩した文字は生活の中で使われることが少なくなりました。時代や状況が変わると、文字の姿だけではなく、ものの見方や感じ方も変わります。私が取り組んでいるのは、「どのような筆跡がなぜ美しいと感じられるか」という問題意識に基づく研究です。たとえば、落書きや書き損じのような筆跡に注目が集まることがあります。そこには、「上手く書いてやろう」という意図が前にでていない、天然で素朴な味わいがあります。他方で、勅命の碑に刻まれた銘のように、一点一画ゆるぎなく組み立てられて厳かな印象を受けるものがあります。主としてテーマにしてきたのは、仮名を典型とする日本の書の美についてです。国語や書道の教科書では「漢字が使われるうちにだんだん崩されて平仮名が生まれた」と概説され、仮名の優美な姿が称えられます。しかし、その成立過程にはよく分かっていないことがたくさんあります。日本の書の美について考えるには、漢字の文化をどのように受け容れてきたかを多様な角度から検討していくことが課題になります。哲学・文学・歴史学・言語学をはじめとした領域と関係してきます。そのような場面で、筆跡は一筋の手がかりを発します。それは、「書くという行為のプロセスがそのまま形になる」という性質です。書が「目で見る音楽」ゆえんだと言われる所以です。筆の軌跡を手がかりにして、リズムの変化を感じ取ったり、線の強弱から手の微細な振動を読み取ったり、書き間違いの要因を探ったり、といったことが可能です。いつの時代にどのような環境下で何が書かれたか、などを総合していくと、「書く」現場のリアリティが蘇ってきます。すると、大昔の人が残したものであるにもかかわらず、今ここで書いた人と対面しているかのように、筆跡を介して生き生きとした対話ができるのです。書は「分からない」という初対面の印象をこえて、筆跡と対話を深めていくことは、自分とは異なる環境正門前の大学名に薄紙をあてて拓本を採っています。9_AUTUMN 2022ならやま