ならやま夏号

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クローズアップていたとしても、「そうそう、俺も見た見た~。特に前半終了3分前に決めたシュートがさ~」などと、一緒に私語を始めてしまうのではないでしょうか。「今は授業中だから、その話はあとで…」という返....

クローズアップていたとしても、「そうそう、俺も見た見た~。特に前半終了3分前に決めたシュートがさ~」などと、一緒に私語を始めてしまうのではないでしょうか。「今は授業中だから、その話はあとで…」という返事をすることは、なかなか難しいですよね。では、なぜ難しいのでしょうか。これまでの研究(島田, 1999)では,相手が話しかけてきているときに、これを断ってしまうと、「相手に悪いかな」とか、「つきあいが悪いかな」などと考えて、このような返事ができなくなるのではないか、という報告もなされています。この場面では、「私語はしてはいけない」という規範と、「友人が話しかけてきたら、返事をしなくてはならない」という規範が2つあると思われます(出口, 2009a;髙木・村田, 2005)。ここで問題なのは、2つの規範を同時に守ることが難しいということです。そして、少なからぬ人が後者の規範に注目して、「私語はいけない」と思いつつも、「友人には返事をしなくてはならない」という規範を守るために、私語をしてしまっているのではないでしょうか。このように、「いくつかの規範があるとき、その場面で注目された規範が、その人の行動に影響を与える」という考え方は、心理学では「規範的行為の注目理論」と呼ばれています(例えば、Cialdini et al., 1991;髙木・村田, 2005)。この考え方に基づけば、授業中に私語をしている学生は、けっして規範を無視しているわけではなく、しっかりと規範に従っていることになります。ただし、その規範は「私語をしてはいけない」という規範ではなく、「友人には返事をしなくてはならない」という規範である、ということになります。過去の研究では、私語をよくしている人は、対人関係に関する適応度が比較的高いことが示されています(出口・吉田, 2005)。つまり、私語という「してはいけないこと」をすると、友だちと仲良くなれるかもしれない、ということになります。これに関連して、「大学では、いろいろな人と交流したい」と思っている人は、「私語はいけないことだ」と思っていたとしても(つまり、高い規範意識を持っていたとしても)、私語を頻繁にすることも報告されています。さらに、コミュニケーション能力(社会的スキル)が高い人は、私語をする頻度が高いということも知られています。私語は「いいこと」?「よくないこと」?その2さて、これでは、授業中に私語をすることは「いいこと」で、しない方が「よくないこと」のような感じを受けられるかも知れません。しかし、もちろん、そんなことはありません。みんなが私語をすれば教室は騒がしくなり、教員の声が聞き取れなくなるなどして、授業を進めていくことが難しくなります。そして、自分たちだけでなく、他の人の勉強も妨害することになります。これは、当然のことながら「よくないこと」でしょう。しかし、その「よくないこと」をすれば、先ほど書いたように、「友だちと仲良くなれる」という「いいこと」が起こるかも知れないのです(出口・吉田, 2005)。さて、ここでもう1回、質問です。みなさんは、授業中の私語はいいことだと思いますか?だと思いますか?よくないことなかなか難しい質問ですよね。でも、これを読んでいる皆さんは、授業中の私語はなるべくしないでくださいね。「周りの人がしている」から私語をする出口先生を中央に、ゼミの学生たちとさて、いろいろと書いてきましたが、人によっては、「『友だちと仲良くなれる』から私語をしよう!とかなんて、いちいち考えないよ。周りがうるさければ自分も私語をするし、静かだったら、周りにあわせて静かにするだけだよ」と思った人もいるかも知れません。確かにその通りで、周囲の人たちが騒がしければ私語をしやすくなり、静かだったら私語はしにくくなりますね。このように、周囲の「状況」(騒がしいか、それと11_SUMMER 2012ならやま