ならやま 2013年夏号

ならやま 2013年夏号 page 13/24

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概要:
最近はどのような研究を行っているか?これまでは、中海・宍道湖、つまり汽水湖(海からの海水が川を遡って流入する湖)の研究を学生時代から14年間行っていました。代表的なものとしては、ヤマトシジミの生息に関連....

最近はどのような研究を行っているか?これまでは、中海・宍道湖、つまり汽水湖(海からの海水が川を遡って流入する湖)の研究を学生時代から14年間行っていました。代表的なものとしては、ヤマトシジミの生息に関連する貧酸素水塊(水中に溶けている酸素量が3.0 mg/L以下の水塊)の動態、中海の淡水-塩水境界面に発生する内部波の発生と動態について研究を行っていました。奈良県にはため池は数多くありますが、湖や海はありません。本学に着任してからは、奈良県に近いフィールドとして大阪湾に関する研究を行うようになりました。全くこれまでのフィールドとは異なる沿岸海洋が対象になりますが、汽水湖も沿岸海洋も基本的には同じ研究手法で考えることができます。また、貧酸素水塊の問題は湖(淡水湖、汽水湖)や沿岸海洋(内湾や港湾)での共通の水環境問題の一つです。さて、大阪湾(瀬戸内海の一部)で「今何が起こっているのか?」をお話しましょう。大阪湾は人間の体に例えれば、“メタボ”になっています。つまり、“栄養過多(陸域から窒素やリンなどの栄養塩が豊富に入る)”や“運動不足(湾内の流れが小さい)”などで、赤潮(あかしお)、青潮(あおしお)、貧酸素化が頻繁に起こっています(写真参照)。赤潮はご存じかもしれませんが、青潮は、赤潮よりもさらに悪い環境問題です。青潮について簡単に説明すれば、海水中の貧酸素化がさらに進むと無酸素化(水中に溶けている酸素の量がほぼ0 mg/L)し、硫化水素が発生するようになります。その硫化水素を含んだ無酸素水が海面に現れると青潮(水面がエメラルドグリーンの水色に変化)になり、沿岸の生物に深刻な悪影響を及ぼします。一方、瀬戸内海全体で見ると、大阪湾などの湾内では“メタボ”になっていますが、その他の海域では“栄養失調(窒素やリンの栄養塩が不足)”でノリの色落ちや不作などの問題が生じています。これは、高度経済成長に伴い、1960年代半ばから富栄養化による赤潮発生などの問題が生じたことから、瀬戸内海環境保全特別措置法(1978)により、窒素、リンなどの栄養塩や有機物の流入の総量が規制され、赤潮による漁業被害は少なくなりましたが、どの海域でも一律に規制がされていたために、近年、ある海域では栄養塩が不足する問題が生じてきました。このように水環境問題は簡単には解決できず、さまざまな現象を総合的に見ていく必要があります。現在、さまざまな水環境問題を抱えている大阪湾で次のような研究を行っています。(1)貧酸素水塊抑制技術の開発大阪湾での貧酸素化と青潮は、生物にとっては深刻な問題です。そのため、貧酸素・無酸素水塊を解消し,生き物の棲める港湾海域を再生・創造するための実効的な技術の開発を行うために、現地観測と現地実証試験を行っています。(2)大阪湾の二酸化炭素放出・吸収量人間活動によって大気に放出されたCO2の海洋への吸収量は、総排出量の約30%と見積もられています。海の中でも陸域からの人為起源の栄養塩や有機物が豊富に流入する沿岸海域では、植物プランクトンによる光合成が盛んであるため、大気CO2の大きな吸収源となっていると考えられますが、日本の沿岸海域(東京湾・伊勢湾・大阪湾など)のCO2の空間分布や時間変動および吸収・放出量については、まだ分かっていません。これらを、明らかにするために、湾内のCO2測定手法の開発と現地観測を行っています(図参照)。新西宮ヨットハーバーでのDOとΔpCO2の変動(2011年)昼間の光合成により、DOが増加、CO2吸収が多くなり、夜間はその逆となっています。新西宮ヨットハーバーの赤潮(2009年5月10日)尼崎港の観測機器設置大阪湾御前浜調査状況甲子園浜の青潮(2008年9月19日)水質の機器測定SUMMER 2013ならやま_12