E学校や自分自身に関わるケース
まったく経験がないのに、野球部の顧問を頼まれた

 あなたは、高等学校に勤務しています。採用7年目に2校目の学校へ異動しました。転勤の片づけがすみ、新しい学年や学級経営の準備をしているとき、生徒指導主事の先生に呼び出されました。「この異動で、本校の野球部の顧問の先生が他校に転勤しました。今年度から野球部の顧問になってもらえませんか。」あなたは、まったく野球の経験がありません。なんでもやろうとは思っていたのですが、さすがに躊躇してしまいました。あなたは、このような状況でどのように対応しますか。

 【解説】
 野球部の部活動は、教育課程外の活動であるが、学校の教育活動と位置づけられる。高校では、ほとんどの教員がどこかの部の顧問になっている。ただその部が活発に活動しているか否かは、学校や競技により大きく異なる。野球部は、夏の全国高等学校野球選手権大会(主催:高野連、朝日新聞社)、春の選抜高等学校野球大会(主催:高野連、毎日新聞社)がテレビや新聞で取り上げられることからその活動は注目される。小学校・中学校時代から野球を続け、高校で甲子園出場を夢みている生徒も多く、教員や保護者、卒業生の多くはその活動を応援している。ただ野球部の活動は、放課後、土曜・日曜・祝日、長期休業日にも及び、わずかな手当はあるものの顧問になった教員の生活に与える影響は大きい。
 ケースの場合、野球部の前顧問の異動に伴い転入してきた教員に顧問就任の声がかかったのである。野球の経験がないこと、自分の家庭生活に大きな影響が出ることから、その教員が顧問就任を躊躇した心情もよく理解できる。しかし、野球部の顧問は、どの教員にもできることではない。長い教員生活をみた場合、一つの節目となることは間違いない。声をかけてもらったことを光栄と捉え、是非とも前向きに対応したいものでる。
 中学校や高校の部活動では、当該競技未経験の顧問が大きな成果を上げていることも多い、そのような教員は、先輩や同僚、ときには部員から指導方法を教わり、練習試合などを通して他校の顧問の指導方法を探り、次第に自分の指導方法を確立しているのである。高校野球部の場合には、県内の顧問や監督のネットワークがしっかりしており、そこからさまざまな情報を得ることができる。また、何よりも生徒は顧問の指導技術ではなく、情熱に期待している。
 部活動については、従来から多くの課題が指摘されている。放課後、土曜・日曜・祝日、長期休業日の顧問の超過勤務のこと、勝利至上主義のこと、指導時の体罰のこと、活動中の事故のことなどである。一方、部活動は、生徒を大きく成長させる機会でもあり、生徒指導上大きな役割を担っている。また、部活動での経験や結びつきは生徒の心に強く残り、卒業後も同窓会の活動として維持されていることも多い。
(「教師力を鍛えるケースメソッド123」 ケース122より)