「人と磁性との関わり――古代から現代へ」  久保武治

いつの時代においても人は,ものごと(事象)の原理を理解したいという知的欲求を有してきた。この欲求を追及することによって人は,経済的豊かさや文化的な生活に代表される知的所産を獲得してきた。このような知的欲求のひとつに,「なぜ磁石が金属を引きつけるのか」をあげることができる。この磁石と人との関係は遠い昔からあった。

古において磁性が人にもたらした最大の恩恵は,方位磁石としての利用である。方位磁石により,どんな人でも自分のいる方位を確認することが可能になった。その後の重要な出来事は,17C初めにおける磁気学の成立である。18Cになって電力を恒常的に供給することが出来る電池が発明され,磁性の研究は電気学とあいまって発展した。

 20Cに入り,学問における研究対象がマクロからミクロに向かうにつれて,扱う量が連続的に存在せず整数倍でしか許されないとする量子論が注目を浴びた。磁性の分野においても量子論が適用され,理論的説明が根本から行われることになった。そして純粋学問分野だけでなく応用工学的分野でも大きく発展することになった。そして現代では,磁性体はメモリー素子,メモリーデバイスとして,私たちの身の回りの多くの製品に利用されている。本セミナーでは,「人と磁性との関わり」を歴史的な観点から,実例を豊富に交えながら説明していきたい。