「奈良時代の色彩−繧繝(うんげん)彩色ってなんだろう−」     大山明彦
 
 世界遺産としても知られる法隆寺金堂・五重塔及び薬師寺東塔の天井廻りや東大寺法華堂諸尊、またシルクロードの終着駅とも喩えられる正倉院宝物などの内には、およそ1300年の時を経て、なお往時の色彩を今日に留めているものが幾つか存在致します。それらの内には剥落や変褪色著しく、辛うじてただその痕跡を残すのみと成っているものもみられるのでありますが、その事実は、まことに世界にも希な、そして驚嘆すべきこととして捉えるべきものであると思います。
 今回はそれらの色彩が、どのような顔料や技法によるものであると考えられるのか。ことに当時流行の色彩表現法であった繧繝彩色について、その表現のなされ方、配色原理などについて、「文化財の記録保存のための彩色文様の模写・復元」と云う、あくまでも実技的研究に携わる者として、できるだけ解りやすく、スライド映写を交えることによって、いくつかの実例を挙げながらご紹介させていただきたいと思います。