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<奈良県にすむ両生類>

 奈良県は北部の奈良盆地の低地部(沖積低地)とその周辺の西ノ京丘陵・矢田丘陵、平城山丘陵、馬見丘陵の低山部、生駒山地・金剛山地・竜門山地の山地帯、東部の大和高原、南部の吉野山地に分けられます。
 水域としては北部の平地部は、水田、金魚池、溜め池(皿池)、大和川水系があります。低山・山地・高原部は、湧き水、谷川(渓水)、高層湿原(ミズゴケ湿原)、麓の溜め池(すり鉢池)があります。南部では、吉野川水系、北山川水系、十津川水系があります。これらの水域で両生類が次の7科8属21種、確認されています(表1)。

   

◇ 表1 奈良県の両生類
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目    科    種            分布域
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サンショウウオ目(有尾目)
  イモリ科    アカハライモリ        低山部、高原、山地
 サンショウウオ科
         カスミサンショウウオ     低山部、高原
        ブチサンショウウオ      山地部
        オオダイガハラサンショウウオ 山地部
        ハコネサンショウウオ     山地部
 オオサアンショウウオ科
         オオサンショウウオ         山地部

カエル目(無尾目)
 アマガエル科  ニホンアマガエル        広域
 ヒキガエル科 ニホンヒキガエル       低山部、高原、山地部
        ナガレヒキガエル       山地部

 アカガエル科 ニホンアカカエル       低地部、低山部
        ヤマアカガエル        低山部、山地部
        タゴガエル          低山部、高原、山地部
        ナガレタゴガエル       山地部
        ダルマガエル         平地部
        トノサマガエル        平地部、高原
        ウシガエル          広域
        ツチガエル          低山部
        ヌマガエル          広域
 アオガエル科 シュレーゲルアオガエル    低山部、高原、山地
         モリアオガエル        低山部、山地部
        カジカガエル         山地部
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奈良県の両生類の分布

 著者の調査(1982〜1995)によれば、比較的分布の限られている種と広く分布している種があるように思われます。

<広範囲に見られる種>
 ウシガエル・ヌマガエル・トノサマガエル・ニホンアマガエルは低地から丘陵地にかけて幅広く分布しているポピュラーな種です。 これらの種は初夏から初冬の雨の日、道路に飛び出してくるのをよく見かけます。

ウシガエル(アカガエル科)
 この種は北アメリカからの帰化動物です。輸出食料として飼育しようと持ち込まれたものが逃げ出して日本各地にすみかを広げていったものです。
 繁殖力が強く、今ではどこにでもいます。大和郡山市の新木の金魚池や佐保川で体長20pに達するものも多く見かけました。
 大和郡山市平和小学校前の用水路(今は三面コンクリートで囲まれてしまい、あまり見かけなくなった。)で捕らえたウシガエル(体長15p)の胃からはウシガエルの体長5pほどの子ガエル1匹とアメリカザリガニの小さいのが5匹、シオカラトンボのヤゴが5匹、サカマキガイが3匹が出てきました。ウシガエルは小動物食で、しかも貪欲!。水域のものを何でも口に入れていることがわかります。
 もちろん平地だけでなく、丘陵の池にもよく見かけます。貪欲なカエルだけに分布は制限される要因が少ないようです。
 冬期、このカエルは、泥の中や植木鉢の下等で一時的に休眠することはあるようですが、他のカエルのように冬眠しないようです。暖かい日には、水辺に姿を現します。幼生は、冬期も池沼で見ることができます。

   ヌマガエル(アカガエル科)
 ヌマガエルは小型種ではごくふつうに見かけるもので、奈良盆地の水田を中心にかなりの数が生息しています。この種は本州では名古屋以西に分布する南方系の種です。
 一般に「いぼがえる」でくくられてしまっていますが、この辺りではヌマガエルとツチガエルの2種をさしているようです。東京からきている方に聞くと、「関東では見かけないなあ。よくにているツチガエルは結構いるよ。」とのことでした。奈良盆地では、ツチガエルを探すほうが難しいです。
 ツチガエルの方が、山麓、大和高原や山間部などに多いようです。同じ「いぼがえる」でも、昔からの自然が守られている方にいるのがツチガエルといえそうな感じです。この辺りでの環境指標にならないでしょうか。

トノサマガエル(アカガエル科)
 トノサマガエルについても盆地、高原に限らず、水田を中心によく見かけます。背中に線があるのが目印です。オスは背中が緑色のものです。線が緑色になっていることもあります。ただ、体色・斑紋に変異が大きく、どれも違うように見えます。
 この種群(近縁の種のグループ)にはダルマガエル・トウキョウダルマガエルが含まれます。関東地方にはトウキョウダルマガエルがいるかわりにトノサマガエルがいないようです。奈良県では奈良盆地や大和高原でダルマガエルとの混棲が見られます。


注目すべき種

 北部の奈良盆地周辺ではダルマガエル、シュレーゲルアオガエル、ツチガエルはもっと広範囲に見られていいのですが、分布にかなり偏りがあります。
 また、山間では普通に見られるイモリも、奈良盆地では見られるところが丘陵地に限られ、貴重になりつつあります。
 モリアオガエルは春日山周辺、室生寺周辺にだけに偏って分布しています。他の地域とのつながりはよくわかりませんが、近隣では大阪府高槻市や京都市、鈴鹿山脈などの棲息地が知られています。
      南部の吉野山地では最近の新種ナガレタゴガエルの生息が確認されています。また、渓流性のサンショウウオ(オオダイガハラサンショウウオ、ブチサンショウウオ、ハコネサンショウウオなど)が普通に見られます。サンショウウオの生態についてはまだまだ不明な点が多いです。特別天然記念物で、両生類最大のオオサンショウウオも南部の吉野山地に生息していることが知られています。
 産卵習性で特筆すべきなのは、タゴガエル、モリアオガエル、シュレーゲルアオガエルです。幼生の食物のない伏流水中に産卵をするタゴガエル、メレンゲ状の泡につつんで樹上に産卵するモリアオガエル、畦などの土中に産卵するシュレーゲルアオガエルは、他の水中産卵とずいぶん違っています。

ダルマガエル(アカガエル科)
 ダルマガエルはトノサマガエルとよく似た種ですが、トノサマガエルに比べて、ずんぐりしています。この種は「奈良盆地北部、南西部の湿田地帯」という報告があるだけです。1980年に大和郡山市、豊浦の集落の東側の用水路で典型的なダルマガエルを確認しました。その後、他の地域では確認できていません。

タゴガエル(アカガエル科)
 山地部に広く分布しています。ニホンアカガエル、ヤマアカガエルとよく似ていますが、産卵の様式が違うのと、のどもとの斑紋で容易に見分けることができます。
 産卵は、4月下旬から5月上旬にかけて見られます。早春の頃にも産卵するとも言われていますが、奈良県での記録はありません。産卵は、谷間の伏流水がしみ出るような岩の隙間や、土中です。入り口付近でオスが「ファッハッハ、グアッハッハ」と鳴きます。それが共鳴して不気味な感じがします。
 中には、産卵のための空間が作られ、そこに100粒ほどの卵の塊が産み付けられます。個々の卵の大きさはカエルでは最大級です。
 伏流水中では、幼生の食物がなく、卵黄のみで変態していくため、子ガエルはとても小さいです。

シュレーゲルアオガエル(アオガエル科)
 吉野山地・大和高原やその山麓、矢田丘陵などの斜面の水田で見かけます。
 水田の畔に穴を掘って、卵を産みます。畔ぬりをした棚田がこの種の好む田です。5月〜6月ごろよく見ますが、ちょうどそのころが産卵期になっています。それ以外の時期では丘陵の森林内で出会うことがたまにあります。 土中に穴を掘って産卵するタイプは国産のカエルでは唯一です(タゴガエルもよく似た性質がある)。現在のところ、低地では確認できていません。畔ぬりをしないで波板やゴム板を立てる田がふえていますので、その波板などの間に潜りこみ、産卵していました。近年、奈良教育大学付近でも、かなり平地におりてきているようで、南紀寺周辺でも鳴声を聞くようになりました。

モリアオガエル(アオガエル科)
 奈良県では、春日山原始林周辺、室生寺周辺に分布します。樹上に産卵することで知られています。樹上に産卵できたのは、湿潤な林床を生息環境にしていたためだと考えられます。
 春日山原始林周辺では伐採や環境汚染などで環境が悪化し、林内の乾燥が進んでいます。天候の影響もありますが、近年では卵塊が乾燥しきった例が多く見られるようになりました。
 モリアオガエルは5月下旬から7月にかけて、産卵時に直下に水面のある、池に突き出した枝葉に産卵します。どのように水面をとらえているかはわかりませんが、雨が激しいときには、地面の上や地面の上の枝葉などに産んでしまう例も毎年数件あります。

ニホンイモリ(イモリ科)
 大和高原ではごく普通に見られる種ですが、奈良盆地ではその分布は丘陵の湿原やそのふもとの水田などにわずかに見られるだけになりつつあります。「アカハラ」でよく知られている種ですが、腹の赤みは、地域によって違いがあるとも言われています。


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