地域に根ざした体験型学習をめざして(学校教育講座 板橋孝幸)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

わかりやすい授業って、どんな授業?

 「わかりやすい授業とは?」と質問されたら、みなさんはどのような授業をイメージしますか。先生がゆっくりと丁寧に教えてくれる授業、様々な電子機器を用いて視覚的に理解を促す授業、子どもたちを褒めてやる気を出させる授業などをイメージするのではないでしょうか。しかし、そうした方法や技術に着目することも大事ですが、実際に体験する授業こそ、最も理解でき心に残るものになると思います。社会科の教師になりたいと思っていた私は、学生時代に自転車で全国一周をしながら、地域の文化や事象を学習内容に取り入れたら楽しく学ぶことができるかもしれないと考えていました。

 学校での学習が難しく感じたり、親しみが持てなかったりする大きな理由の1つは、抽象的で日常生活と遊離しているためと言われてきました。とりわけ、社会科はしばしば暗記教科とされ、学びの意味が学習者に伝わりにくい面がなかったでしょうか。こうした問題意識から、身近な地域事象を用いて日常生活のつながりがよりよく認識できたら、授業がわかりやすく学習意欲も向上するのではないかと考え、これまで郷土教育の研究をしてきました。郷土教育とは、時代や地域によって名称は様々ですが、地域学習やふるさと学習などとも言われます。小学校中学年社会科や総合的な学習の時間などで、地域について学んだ記憶のある方も多いと思います。

作って食べる郷土教育・歴史遺産を活用した郷土教育

 教育史を専門に郷土教育研究を進め、昨年これまでの成果を『近代日本郷土教育実践史研究』という1冊の本にまとめました。これは郷土教育の歴史的・理論的研究ですが、これからはこうした成果を現代の教育実践に活かしていきたいと考え、本学の優れた施設や豊かな環境を用いて様々な取り組みを学生たちとともに進めています。ここでは、2つほど紹介したいと思います。

板橋孝幸『近代日本郷土教育実践史研究』風間書房、2019年.jpg
昨年刊行した『近代日本郷土教育実践史研究』

 1つは、作って食べる郷土教育です。本学は、約1haの田畑と果樹園を備えた実習園を持っています。そうした本学の特色ある施設を利用して、大和野菜や京野菜などの伝統野菜栽培、梅干しや味噌造りなど昔から地域で作られている食品の加工といった体験的な活動を通して郷土教育の授業づくりに取り組んでいます。伝統野菜の栽培や昔ながらの食品加工は、地域の風土に根ざしており、郷土教育に適した題材です。

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実習園での活動の様子

 もう1つは、大学の構内と周辺にある歴史遺産を用いた郷土教育です。本学のキャンパスは戦前陸軍の駐屯地でもあったことから、構内に多くの戦争遺跡が遺されています。そうした特色を活かして郷土教育に基づく道徳や平和学習の授業づくりをしています。また、世界遺産に囲まれた本学は、身近な事象を教材化するにあたって優れた環境にあります。

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大学構内戦争遺跡フィールドワーク

 地域について学び行動することは、「Think globally, act locally」とも言われるように世界を考えることにもつながります。教科書に書いてある内容をわかりやすく伝えるだけでなく、本学の特徴でもあるESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)の理念に基づき、子どもの認識と身近な地域事象をつないで自ら学習内容を創造できるような教員養成に寄与したいと考えています。

 学校教育講座 板橋孝幸

 ※この記事は、2021年10月の情報を元に作成されています。

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