これからの言語教育--新たな言語能力観と多言語教育-- (教職開発講座 吉村雅仁)

奈良教育大学
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これからの言語教育--新たな言語能力観と多言語教育-- (教職開発講座 吉村雅仁)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

 みなさんは、自分自身の「言語能力」についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。多くの方は、例えば第一言語としての日本語および第二言語としての英語の能力がそれぞれ脳内の別々の箱に入っているような印象ではないでしょうか。これまで私自身も、外国語教育において、基本的にこのようなイメージに基づき、その言語の「ネイティブ・スピーカー」を究極の目標とし、外国語能力の箱を、第一言語である日本語能力の箱の大きさに近づけるという考え方をしてきました。しかし、近年、これまでとは異なる言語能力のとらえ方が注目を浴びるようになってきました。「複言語能力」と呼ばれる言語能力観です。

 「複言語能力」は、ごく簡単には、図1のようなイメージです。複数言語の共有基底言語能力が存在し、言語によって異なる部分が表層に現れていますが、これらすべてが一つの統合された「複言語能力」というわけです。

1.png図1 複言語能力のイメージ

 

では、本当にそのような基盤となる共通部分があるのかどうか試してみましょう。図2は、月の名前の1月から4月までを4つの言語で表したものです。4つの言語に分類してみてください。

 

2.png図2 4言語での1月から4月

 

 

 ほとんどの人が4枚ずつに分類できると思われます。まず英語の4枚はすぐわかるとして、その他の言語も、全く知らなくても、分類できるはずです。なぜでしょうか。それは、日本語の既存の知識を用いるからです。「一月」「二月」「三月」「四月」のそれぞれの語が数字の後に「月」を表す言葉でできているというルールを適用し、カードを見比べて共通の部分を探す。そうすると、例えば「イーユエ」「アーユエ」「サンユエ」「スーユエ」が同じ言語だと推論できます。その時「ユエ」が月を表し、その前にあるのが数字だとみなすでしょう。これは中国語です。同様に「数字」+「ウォル」の韓国語も簡単ですね。さらに、「タン」が含まれるベトナム語も分類できますが、これは日本語、中国語、韓国語と異なり、「数字」と「月」を表す語が逆になると説明できます。つまり、既に持っている言語能力が他の言語にも共有され、それを使うことで全く知らない言語へもアプローチできることがわかります。

 

 

 

4.png
奈良県立国際高校でのオンライン授業

 

 このように、多言語を比較しながら、複言語能力を育成するという考え方は、各言語の習得を促進するといわれています。現在私は、英語に加え5言語を必修とする奈良県立国際高校と協力しながら、これからの言語教育のあり方を模索しているところです。

 教職開発講座 吉村雅仁

 ※この記事は、2021年11月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   リレーコラム
最終更新 : 2022-03-23 15:43