日本語学概説Ⅰ(音声言語を含む。)(国語教育講座 前田広幸)

 今月の『奈教の授業』では、「日本語学概説Ⅰ(音声言語を含む。)」を紹介します!

講義の基本情報〉
 ・対象学年:国語教育専修1(中等)、2(初等)回生必修科目(前期)、中学校・高等学校(国語)免許取得必須科目

 ・受講者数:47名(2021年度)

どんな授業?

 この講義では、日本語学の分野でも、特に音声・音韻にかかわる分野を対象に、言語学の知見をもとにした分析方法の基礎を学びます。小中学校国語で音声について指導する上で必要となる基本的事項について説明することができることを目標としています。

授業の流れ

授業全体の流れ

  • 音声とは
  • 五十音図の仕組み(行の配列)
  • 五十音図の仕組み(段の配列)
  • モーラ(拍)とは
  • 自立拍と特殊拍
  • 音節(シラブル)とは
  • 音節の軽重
  • アクセント
  • イントネーション
  • 日本語のリズムとフット形成
  • 言葉遊びの日本語の音韻
  • 借用語の発音と日本語の音韻
  • 日本語音声教育における音声分析アプリの利用法
  • 日本語音韻史資料に反映された発音の変化

授業の様子

 授業では毎回、教員からの導入的説明のあと、問題について学生それぞれで考えてもらい、指名してその結果を答えてもらい、その答えの適否について一緒に考えるという形で進めます。ふだんは意識しない日本語の運用の背景に、どのような規則があるかをデータの観察・分析を通じ、意識化するのをねらいとしています。

 例えば問題14では、次のようなデータを扱います。野球選手の声援においては、どのような長さの選手名であっても、「かっとばせー! タン・タン・タン」の三つの「タン」のそれぞれに選手名の一部を対応させて声援がおこなわれます。例えば、「李(リ)」であれば「リ・イ・イ」、「矢野(ヤノ)」であれば「ヤ・ア・ノ」、「城島(ジョージマ)」であれば「ジョ・オ・ジマ」、「クロマティー」であれば「ク・ロマ・ティー」、「源五郎丸(ゲンゴローマル)」であれば「ゲンゴ・ローマ・ル」のような対応であったという報告があり、このような対応の背景にどのような規則性があるかを考えるわけです。そこでは、「モーラ(拍)」と「音節(シラブル)」という考え方が分析の鍵になります。

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図1:問題14より抜粋

 他にも音声分析アプリの利用法を扱う回では、praatというアプリの使い方について学びます。次は「朝から雨が降るところが多く」という天気概況アナウンスのpraatによる分析画面です。

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図2:praatによる「朝から雨の降るところが多く」という句の分析画面

 また日本語音韻史資料を扱う回では、『平家正節』(平家物語を琵琶をかなでながら語る方法を江戸時代に記録した譜本の一種)等の資料をみます。次の画像は、愛知県立大学図書館貴重書コレクション(https://opac.aichi-pu.ac.jp/kicho/index.html)で紹介されている『平家正節』「鱸」の章段冒頭部です。


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図3:『平家正節』「鱸」冒頭部(愛知県立大学長久手キャンパス図書館蔵)

担当教員よりメッセージ

 「どうして「な」や「ら」に濁点はつかないの?」「左右(サユウ)と右左(みぎひだり)、どうして語順が違うの?」等々、日本語の音にかかわる様々な「素朴な」疑問に、どのように答えていけばよいのか、<音韻論>と呼ばれる研究分野の基礎について学習することにより、その基本的考え方、分析方法を身につけてください。

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国語教育講座 教授 前田広幸

 ※この記事は、2021年11月現在の情報をもとに作成されています。

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