これまでの教育・研究と現在~不易を見つめなおす~(数学教育講座 川崎謙一郎)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、なっきょんナレッジの発足に合わせて「これまで→これから」としました。
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

 素数は無限に存在する。そのような気もするが、果たして本当なのか。大学に入学したばかりのころ、この命題に出会いその証明を知りました。今思うと、おそらく、この命題に出会ったことによって代数学を勉強し続けることになったのではないかと感じています。奈良教育大学 (以下、本学) に赴任し、はや 21 年が過ぎました。これまでの、本学における、充実していた教育と研究を振り返ります。

教育について

 算数・数学の講義については、主に代数学に関連する授業を担当しています。
 線形代数などの高等数学の導入科目はもちろんのこと、学校教育の算数科・数学科で現れるところの「定木とコンパスによる作図」「方程式の解の公式」を中心にその発展や代数学的背景を知ってもらう観点で、専門科目を設定しています。以前は、展開図からサッカーボール模型を作ってもらったりしていましたが、学生が将来先生になったらやはり、算数・数学を説明しなければなりません。現在は、数学がもつ独自性と考えられるころの「定理」の「証明」といった論証や論理の展開を大切にして講義を行っています。教育大学である本学において、それは代数学を専門とする自分の役割であると考えています。

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正20面体からサッカーボールC60へ

 本学では毎年、新入生研修が行われています。現在は、概ね学内にて研修を行うことになっていますが、私が赴任してしばらくは、新入生研修は宿泊を伴う形で行われてきました。1回生担当予定の先生が前年度から入念に企画・計画することになっていたと記憶しています。何回か、この研修に参加する学生に吉野の桜を見せてあげたいと、半年以上の時間をかけて、家庭科の食物をご専門とする先生と計画をしました。理数・生活科学コースでは、タイミングがなかなか合わず、葉桜を楽しんでもらうことになったと思います。結局、本専修・履修分野では、入学時のタイミングで吉野の桜を新入生にみせることはできませんでしたが、環境教育コースの研修 (2008年 4/12~4/13) に同行させていただいた際に、吉野の桜をみることができました。満開でした。山全体が桃色で、大変に見事でした。

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吉野の桜

プロジェクトについて

 先導理数プロジェクト (2005--2007)、融合理数プロジェクト (2007--2008) に参画しました。

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先導理数1期生作成の作品ポートフォリオ

 現在本学では、新理数教育プログラムが行われていますが、その活動母体である理数教育研究センターが設置される前のプロジェクトです。当時の学校教育教員養成課程 理数・生活科学コース 数学教育履修分野の教員代表として参画し、特にアセスメントの観点で活動をしました。理数教育に「先端科学の還流」をさせることと「認知プロセスのアセスメント」を組み入れる、といった2つの大きな目的を掲げた学部・大学院のプロジェクトで、私が最も力を入れることになった活動の1つです。

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畳み替え折り紙六角形「ヘキサフレクサゴン」当時の試作品

 当時、曽爾村サマースクール (サマースクール2007イン曽爾, 2007年 8/26 ~ 8/29) での先端科学の紹介ブースを数学の内容の観点で行うとなったときに、数人のプロジェクト参加学生が手を挙げて、「畳み替え折り紙六角形を作って遊ぼう」という題目で、数学者アーサー・ストーンが1939年に考案したパズル「ヘキサフレクサゴン」を折り紙で作ってもらう取り組みを学生が企画・運営してくれました。その年の春の日本数学会で行われた講演の内容を持ち込み、学生に紹介した題材です。サマースクールでは初めての算数・数学関連のブースを組み込んだ実践でした。日本でも昔からよく知られている題材のようです。

 本曽爾サマースクールが行われた期間の 8/28 (火)18時52分、夕方奇跡的に晴れ、お月さんが皆既月食を演じてくれたことを記憶しています。

研究について

 科学研究費の研究プロジェクト等により海外出張をしました。

 私は代数学の一分野、可換代数学を専門としています。より具体的には、これまで、主に局所コホモロジー加群という数学の対象、その加群自体の構造を探求してきました。その成果については、フランスのマルセイユのCIRM (Centre International de Rencontres Mathematiques, November 29 - December 3, 2010)、ドイツのマックスプランク研究所 (September 4 --17, 2009)、アメリカ合衆国のサウスカロライナ大学 (November 8 --10, 2013) などに出向き、研究成果発表や研究調査を行いました。また、アメリカ合衆国のミネソタ大学に訪問し関連分野の研究者と研究交流をしました。

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地中海の夕日

数学教育専修の学生の活動について

 本学数学教育専修では様々な学生の活動があります。

 赴任して以来十数年、継続的に学生の相談にのってきました。とりわけ「夏の算数・数学教室」は、本学学部数学教育に係る専修/履修分野の学生が戦後約70年間にわたり継続的に行ってきている学生主体の活動で、現在に至るまで数学教育講座のスタッフも応援し続けています。これまで、本学の優れた活動として評価されてきています。



 数学は4千年以上の歴史を持つといわれている、非常に魅力のある学問です。現在の学校教育では、約紀元前3世紀までにまとめられたユークリッド原論の内容に始まり、約3百年前ニュートン・ライプニッツの時代のその時々の最先端の数学、およそ2千年間の先端数学の美しいところを、児童・生徒が学んでいると考えられます。

 小学校算数で児童が行う作図。
 定木とコンパスによる作図問題のその発祥は、紀元前 5, 6世紀古代ギリシアにおける問題とされています (ギリシア3大作図問題)。その後、およそ2 千年の時を超えて、1837年にPierre Laurent Wantzel によって、うち 2 つの問題が否定的に解決されました。

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 そのうちの1つの問題「角の3等分問題」について、Wantzel は 一般には、 3等分できないことを示しました。実際に「60度の角でも3等分できない」といった反例を与えることができます。その証明は、作図の問題を中学校で習う2次方程式

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の問題に変換し、それを2次拡大体の列

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という代数学の言葉を用いて可能となります。

 不易流行。不易である代数学を大切にしながら、今後も、本学において算数・数学の教育・研究を行っていきたいと思っています。

奈良教育大学 数学教育講座 教授 川崎謙一郎

※この記事は、2021年4月の情報を元に作成されています。

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