電気・情報分野の楽しい教材を作る(技術教育講座 薮哲郎)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

 今から40年以上前、1980年頃のことです。当時中学生だった私はマイコン(今のパソコン)に夢中になりました。図1のMZ-80Kというマイコンです

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図1 Sharp MZ-80K

 当時のマイコンは「ゲームをする」か「ゲームを作る」ためのものでした。当時のゲームはyoutubeで「MZ-80 地底最大の作戦」「MZ-80 SOSバチスカーフ」などと検索すると見ることができます。今の若い人が見たら「これの何が面白いの?」と思うかも知れませんが、当時の私たちは大人も含めて夢中になりました。毎月発刊されるマイコン雑誌に投稿者のプログラム(ゲーム)が掲載されており、プレイしたいゲームは自分で入力しました。当然入力ミスが発生するので、最初はまともに動きません。それを動くように自分で修正することでプログラミング能力がつきました。ゲームをプレイするのに飽きたら、今度はゲームを自作し、マイコン仲間とプログラムを交換し合って自慢しました。ゲームをやりたい一心でプログラミングをしました。私のプログラミングの原点です。私が電気情報分野に進むきっかけを作ったのはこのマイコンだったと思います。

 大学は電子工学科に進み、さらに大学院に行き、大阪府立大学の電気電子システム工学科の助手になりました。大阪府大では光導波路(光の回路)の中を光が伝搬する現象を、コンピュータでシミュレートする研究をしていました。

 2009年に奈良教育大学に来ました。今は中学校技術科の先生をめざす学生に対して、電気分野と情報分野の講義と実習を担当しています。「仕事は何ですか」と聞かれたときは、「電子工作とプログラミングを教えています」と言っています。

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図2 ハルロック
画像出典:モーニング公式サイト - モアイ (moae.jp)

 図2のハルロックというマンガを知っていますか? 2014年~2015年にかけて連載されたマンガで、女子大生の晴ちゃんが色々な電子工作をするお話です。その電子工作のほとんどは、コンピュータを使った電子工作です。

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(a) Arduino
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(b) Raspberry Pi
図3 シングルボードコンピュータ

 図3 (a) はArduino(アルデュイーノ), 同図 (b) はRaspberry Pi(ラズベリーパイ)と呼ばれるシングルボードコンピュータです。Raspberry Piはこの基板1枚でパソコン1台と同等の能力を持っています。現在の電子工作は、このようなコンピュータに簡単な電子回路を接続して作るのが主流となっています。

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(a) 装置本体(左側)と100 Vをon/offするユニット(右側)
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(b) スマホ操作画面
図4 自宅IoT化装置

 図4の自宅IoT化装置はコンピュータと簡単な電子回路を組み合わせて作る電子工作の典型です。100円ショップで購入したタッパを使って作りました。大きなタッパに「Arduino, Raspberry Piと簡単な電子回路」が入っており、温度センサ、光センサ、赤外線LEDが接続されています。この装置を使って「温度計測」「照度計測」「リモコン信号の送信」が可能です。小さいタッパは「コンセントの100 Vの電気をon/offする装置」です。コタツなどをon/offします。
 この装置はWifiに接続されており、スマホで操作することができます。操作画面が図4 (b) です。
 この装置を自宅や大学の居室に置いて運用しており、遠隔でエアコンをon/offしたり、温度によって自動運転したり、「夜21:00に冷房26度でon/23:30に設定温度を28度に上げ風量静/8:00にoff」のようなきめ細かなタイマー運転をしたり、常時冷房している部屋の温度が規定値を超えると緊急メールを送信したりします。
 USBカメラや人感センサを接続すると、さらに応用範囲は広がります。これを作った2016年頃はIoTという言葉はまだポピュラーではありませんでしたが、自宅IoTの先駆と言えるでしょう。

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図5 目で見て感じる電力計

 図5は「目で見て感じる電力計」です。市販の電力計は消費電力が数字で表示されるだけですが、この電力計は2つの針が回転して電力を表示します。消費電力の量に応じてLEDが点灯します。1500 Wを超えると警告ブザーが鳴ります。アーテックロボという教材に自作回路を接続して作成しました。中学校の授業で使うことを想定しています。
 このような電子工作ができるようになるには、電子回路とプログラミングについて、理論と実技を身につける必要があります。私の講義や実習では、電子回路とプログラミングの基礎を教えています。
 私の研究は、電気分野や情報分野の分かりやすくて楽しい教材を開発することです。

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図6 著書「世界一わかりやすい電気・電子回路 これ一冊で完全マスター!」

 授業で使う教科書は全て自作しています。電気理論の教科書は上記のように市販もしています。
 私が作成した教科書の大部分は以下のWebサイトで公開しています。同サイトでは私が開発した電子工作の回路図なども公開しています。

 今後、電子工作とプログラミングの技術はますます重要になります。私はこれからも電気情報分野を楽しく学べる教材を開発してゆく予定です。

 技術教育講座 教授 薮哲郎

※この記事は、2021年7月の情報を元に作成されています。

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