地理学研究者のこれまでこれから(社会科教育講座・地誌学 根田克彦)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

これまで

 中高校時代、社会科は好きでしたが、地理だけは好きではありませんでした。地理では、山脈の名前を覚えたり、どこで何が取れるのか、ということを習いますが、行くことがない遠い国の山の名前を覚えることに興味がわかず、イチゴ栽培が盛んな地域で、20年後もイチゴを作り続ける保証はないだろうと思うと、覚える気力も湧きませんでした。一方、歴史は過去が現在を規定し、ある場所を説明する際に、歴史的知識は必須です。さらに、歴史では英雄が活躍します。中高生当時好きだった司馬遼太郎とNHK大河ドラマの影響もあり、大学では歴史の研究をしようと思いました。

 大学で社会科の勉強をしましたが、そこで地理を受講しました。地理の授業でフィールド調査を行い、自分で観察したデータを用いて図表を作成し、それらのデータから自分の頭を絞って何かを発見することに楽しさを感じました。高校時代まででは、誰かが発見したことをまとめた教科書を覚えるのが勉強でしたが、大学では自分が発見したことが勉強になる、ということが新鮮でした。もっとやってみたい、この道で食べていければ趣味が仕事になる、と思い、大学院に進みました。

現在

 現在、私は、英語で調査が可能な、イギリスとアメリカの都市を研究しています。海外調査の場合、語学が前提となります。
 自分の目で海外の都市を調査し、データを集め、そこから何かを読み取ることは面白い。しかも、それを日本で最初に紹介するのが私だ、となれば、頑張ろうという気も起きます。なお、外国の研究の場合、必要になるのは、母国である日本と比較する視点です。たとえば、イギリス人にとって当たり前で、意識しないことでも、日本の都市計画制度と比較すると、優れた特徴と思えることがあります。イギリス人が気づかないイギリスの都市計画の特徴を浮き彫りにすることで、日本の都市計画の問題点を明らかにできます。

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写真1 ロンドン、リージェントストリート
 ショッピングストリートとして有名で、景観保護のため、看板・広告の位置・面積、建物の材料と色が厳格に規制されています。日本でも1990年代以降、このような考えが普及しました。

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写真2 イギリスの小学校:朝の風景
イギリスでは親が小学生を送り迎えする義務があります。朝、クラスごとに子どもは校庭で列を作り、担任の先生が呼びに来て、子どもが校舎に入ると、親は帰宅できます。

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写真3 ニューヨーク、エンパイアステートビル展望台
 展望台では、鉄の柵があるだけですので、首を出して下を見ることができ(写真左)、柵からカメラを出すと、真下の光景を撮影できます(写真右)。カメラを落とすのは自己責任でしょう。

これから

 授業では、社会の問題・矛盾をいかに分析するか、その分析の手順を紹介しています。そのためには、信頼できるデータに基づく分析が必要です。しかし、最近インターネットを見て思うことは、いわゆる、フェイクと呼称される情報が氾濫していることと、それに便乗する人がいることです。学校では情報教育の重要性が唱えられていますが、社会科の立場からは、信頼できる情報を見極める目と、信頼できる情報に基づく冷静な分析能力を磨くことがいっそう必要になると思います。定年までのわずかの時間で、そのことの大切さを学生に示すことができたらと思います。それを、学生が教育現場で、次の世代に伝えていただければ幸いに思います。

 社会科教育講座 教授 根田克彦

 ※この記事は、2021年9月の情報を元に作成されています。

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