マツ材線虫病(マツ枯れ)は、世界各地のマツ林に深刻な集団枯死被害を与えている樹木病害です(図1AとB)。感染したマツでは、幹の中の水を運ぶ管である通水組織(仮道菅)が機能を失い、葉に水を届けることができなくなるため、木はしおれて枯れてしまいます。しかし、なぜ通水組織が機能を失うのか、その直接的な仕組みはこれまで十分に分かっていませんでした。
本研究では、まず、マツを暗幕で覆って葉からの蒸散を止め、幹内部の水の移動を抑えた状態を作りました。これにより、マツノザイセンチュウ(図1C)が木の内部に侵入して組織を破壊し、樹脂道から樹脂が漏れ出す過程を明らかにしました。さらに、暗幕を外して蒸散を再開させることで、通水組織内に漏れ出た樹脂や水分の状態が変化し、水の通り道がふさがれていく過程を実際に観察しました。
研究チームは、MRIを用いて幹内部における水の分布を非破壊で追跡するとともに、cryo-SEMおよびX線CTを組み合わせることで、幹の内部構造や通水組織内の内容物の変化を詳しく調べました。その結果、樹脂の漏出が起きた後、葉からの蒸散によって通水組織内の水分状態がある条件に達すると、水の通り道が急速に閉ざされることが示されました。
本成果は、マツ材線虫病による枯死の仕組みの理解を深めるものであり、今後は病気に強いマツの選抜や育成への応用も期待されます。本研究成果は、2026年5月15日に植物学の国際誌Annals of Botanyにオンライン掲載されます。
マツ材線虫病は、外来の病原体であるマツノザイセンチュウ(図1C)が、マツノマダラカミキリという昆虫によって媒介されることで広がる病気です。日本ではクロマツが防風林・防砂林として海岸部を中心に広く植栽され、白砂青松の美しい風景を作っていますが、マツがこの病気に感染すると高い確率で枯死するため、海岸林の衰退や伐採・管理コストの増加など、自然環境や地域社会に大きな影響を及ぼしています(図1AとB)。
これまで、マツ材線虫病の予防や防除、また枯死の仕組みについて多くの研究が行われてきました。しかし、木が枯れる引き金となる物質や現象については、十分には分かっていませんでした。
植物は、葉からの蒸散によって生じる引っ張る力(張力)により、根から吸い上げた水を幹内部の通水組織(仮道管や道管)を通して葉へ運んでいます。ところが、土壌の乾燥などによって通水組織内の水に強い力がかかると、水の通り道の中に気泡ができて水のつながりが切れます。これを通水阻害といい、通水阻害域が拡大すると、水を運べなくなることがあります。
マツ材線虫病では土壌が湿潤であっても通水阻害域が増え、葉がしおれてしまうことが知られていましたが、通水阻害の発生プロセスを直接捉え、原因物質を明らかにすることはできていませんでした。
そこで本研究では、通水阻害がどのような条件で起こり、何がその引き金になるのかを明らかにすることを目指しました。
本研究では、2011年~2021年にかけて東京大学で栽培された3年生のクロマツ苗(図1D)を用い、実験室内で接種試験を繰り返し行いました。苗木の1年生主軸の中央部(図1E)に、蒸留水を注入した対照区と、マツノザイセンチュウを接種した実験区を設けました。実験区はさらに、室内にそのまま置いた区・暗幕で覆った区・暗幕で覆い、さらに加湿した区、の3区に分け、葉からの蒸散量を変えることで、木の中の水の動きと張力の強さを制御しました。
東京大学福田健二研究室の所有する樹木用MRI(図2AとB)を用いて、接種部位の周辺で水の通り道がどのように変化するかを非破壊で観察しました。また、試料を液体窒素で凍結してcryo-SEMで幹断面を観察するとともに、一部の試料ではX線CT(SkyScan1272、ブルカージャパン株式会社:図2C)による非破壊観察も行いました。本手法により、マツノザイセンチュウによる組織の破壊と、通水阻害域が生じて広がる過程とを分けて解析しました。
まず、蒸留水のみを注入した対照区では、大半の仮道管が水で満たされていました(図3A)。線虫を接種した苗では、条件によって異なる変化が確認されました。室内にそのまま置いた区では、通水阻害域が現れましたが、その広がり方には個体差がありました。この部位を詳しく調べると、仮道管の内部は空になっており、気体によって水の通り道がふさがれていることが分かりました(図3B)。一方、暗幕区および暗幕+加湿区では、蒸散が抑えられ、通水阻害の進行も抑制されました。しかし、暗幕を外して蒸散を再開させると、通水阻害域が拡大しました。cryo-SEM観察の結果、通水阻害が起きた部位では、樹脂道から漏れ出した樹脂が確認されました(図3C、矢頭)。
また、接種後に暗幕を外さなかった個体では、通水阻害はほとんど認められませんでしたが、樹脂が通水組織内に漏れ出ている様子が観察されました。この樹脂漏出の分布は、X線CTでも同様に確認されました(図4)。さらに、暗幕+加湿後に蒸散を促した個体では、通水組織内の水の張力が-0.5 MPaに達した時点で通水阻害が発生しました(図5)。この-0.5 MPaは、土壌乾燥などのストレスがなくても、マツの幹内部で日常的に生じる程度の張力です。
これらの結果から、マツ枯れにおける通水阻害は、二つの過程によって引き起こされることが明らかになりました。第一に、線虫の侵入によって樹脂が通水組織内に漏れ出すこと、第二に、葉からの蒸散によって生じた通水組織内の水の張力により、漏れ出た樹脂や水を起点に気泡が生じ、通水阻害域が発生・拡大することです。
奈良教育大学自然環境教育センター
梅林 利弘 特任准教授
(論文投稿時の所属:東北大学大学院生命科学研究科)
ブルカージャパン株式会社バイオスピン事業部
荒木 力太 博士
東京大学大学院農学生命科学研究科森林植物学研究室
平川 雅文 技術補佐員
黄 文倩 博士課程
福田 健二 教授
タイトル:The development of xylem dysfunction from resin leakage in pine wilt disease
著者:Toshihiro Umebayashi, Rikita Araki, Masahumi Hirakawa, Wenqian Huang, Kenji Fukuda
掲載雑誌:Annals of Botany
DOI:10.1093/aob/mcag101
図3と5は、Umebayashi et al.(2026)Annals of Botany 掲載論文の内容をもとに、プレスリリース用に一部改変して作成したものです。
【研究に関するお問い合わせ】
奈良教育大学自然環境教育センター
特任准教授 梅林利弘
TEL:0742-27-9207
E-mail:umebayashi.toshihiro(at)cc.nara-edu.ac.jp
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TEL:0742-27-9104
E-mail:kikaku-kouhou(at)nara-edu.ac.jp
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