平成30年度奈良教育大学入学式 学長告辞 - 奈良教育大学

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平成30年度奈良教育大学入学式 学長告辞

本日ここに柳澤元学長先生をはじめ、後援会、同窓会の会長様、副会長様のご臨席のもと、奈良教育大学 平成30年度入学式を挙行できますことは、奈良教育大学 教職員全員の大きな喜びであります。

教育学部 学校教育教員養成課程 273名、大学院教育学研究科 修士課程 44名、大学院教育学研究科 専門職学位課程 19名、学部と大学院を合わせますと、336名の新入生を、本日、ここに迎えることができました。

皆さんの入学を心より歓迎いたしますとともに、祝福の言葉を贈りたいと思います。皆さん、奈良教育大学へのご入学おめでとうございます。

皆さんの大学での「学び」と「研究」に対する指導助言、また、大学生活に関する支援について、最大限の努力をお約束いたします。

また、ご家族や関係者の皆様にも心よりお祝い申しあげますとともに、本日、多数のご出席をいただきましたことに、厚く御礼申しあげます。

さて、皆さんが本日の入学式を迎えることができましたのは、皆さんひとりひとりがそれぞれ、小学校、中学校、高等学校などで自らの「学び」を積みあげてこられた成果であり、ゴールであります。いろいろ悩んだりしたこともあったかもしれません。また、頑張っても、思うように結果が見えてこなかった日々があったかもしれません。

しかし、皆さんは、見事にそれらを乗り越え、本日を迎えられました。今一度、「合格」の知らせを受け取った時のことを思いおこしてみてください。あの時、まさに「やった」という喜びと、充実感を実感されたことと思います。どうか、あの時の思いを、一生、大切にして歩んで行ってください。

本日の入学式までの道のりが、山の頂上を目指す山登りの道で、本日の入学式が山頂に立ったことになるとしたら、今日からの教育学部での4年間、修士課程あるいは教職大学院での2年間は、皆さんにとってどのような道のりになるのでしょうか。次の新しい山の頂を目指す道のりなのでしょうか。それとも、しばらく平坦な尾根伝いの道なのでしょうか。

4年間あるいは2年間の学びで、皆さんは新たにどのような能力を身に付け、何を獲得しようとしているのでしょうか。そしてそれは、みなさんひとりひとりの人生にとって、どのような意味をもった営みなのでしょうか。

入学式を迎えた本日、4年間あるいは2年間のカリキュラムを組む際には、このことを是非とも、一度、考えてみてください。

さて、皆さんは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの教員になることを目指して、本日、本学に入学されました。大学に合格するために受験勉強をしたわけですが、教員になるために大学を目指し、教員になるための大学のひとつに本学があり、そして本学に合格するために頑張ってこられた。全ての原点が、「教員になるため」ということにあったわけです。

このように、明確な目標をもって、大学に入学された皆さんを私は、大変、頼もしく思います。どうか、この目標を4年後、2年後には達成させてください。大学は、大学教職員全員でそれを応援します。

私は今、336名の未来の教員を前にしているわけです。教員になろうと考えた思いは、336名をもってして、336通りの思いがあると思います。336名がそれぞれ別の人間ですから、336通りあることを尊重しなければなりません。

「教員」ということを考えた時、「教育」の重要性から「教員」の重要性を論じることは、ある意味簡単です。その重要性は基本ですが、重要だからそれを目指すというのは早計です。

なぜ教員を目指すのかの答えは、単純ではなく、また、ひとつではありません。しかし、このことを考える時、私は、現職の先生からお聞きしたひとつのお話を思い出します。

その先生は、ある市で20年ほど中学校の教員をされていました。その日は、その市の成人式の式典の日で、その会場で開催を司っておられました。

その時、成人を迎え式典に参加しているひとりの新成人から、「先生、私を覚えていますか。」と突然声をかけられたそうです。名前はすぐに思い出されました。新成人となる日、そのひとりの大人は、こう語りかけて来たそうです。どうやら、中学生の時、元気すぎた方のようです。振り袖で着飾った女性です。「先生、あの時、先生は、クラス全員に注意していたけれど、本当は、あのことでは、私ひとりが注意をされればよかったと思います。でも、先生は、私だけを叱るのではなく、クラス全員のこととして、私たちを叱りました。私は、あのことがずっと忘れられません。私は、今日、無事、成人式を迎えられました。先生、ありがとうございました。」というものだったそうです。

ここに、重要なことが含まれていると思います。ひとつは、中学校卒業後、もう、生徒と先生の関係ではないのに、「先生」と呼びかけていることです。先生、学校の先生は、この世にある数多くの職業のひとつですが、卒業して生徒と先生の関係が切れても、一生、「先生」と呼ばれる役割を背負う職業であるということです。退職し、教壇に立つことがなくなっても、昔の教え子からは、「先生」と呼ばれる存在なのです。そして、先生のあの時の細やかな思いは、伝わっていたということです。

また、「私は、あのことがずっと忘れられません。先生ありがとうございました。」という言葉にあるように、教員は、人間の成長に大きく関わる大変重要な役割を担う職業だということです。働きがい、働く喜びという観点から申しあげれば、「教員は、人間の成長にたずさわることができる魅力のある仕事」なのであります。責任は重大でありますが、これ以上やりがいのある仕事がありますでしょうか。

もちろん、国語や算数、理科や保健体育など、教科の指導があります。教科等の授業を通して、子どもたちに、学力の重要な要素である基礎的・基本的な知識・技能、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力、また、学習意欲を身に付けさせる役割があります。このことは、教育実践力をいかに身に付けるかということであり、教材の研究などたゆまぬ研鑽が必要です。「学び続ける教員」ということが叫ばれますが、まさに教員は生涯学び続けるわけです。その時、分からないことが分かるようになった時の子どもたちの喜びの笑顔、また、例えば鉄棒の逆上がり、できなかったことができるようになった時の子どもたちの自慢そうな笑顔、それが子どもたちから返って来るわけです。その子どもたちの笑顔と一緒に自分も成長していける仕事であるわけです。

教科等の指導の他にも、子どもたちが自己実現を図っていくために、適切な生徒指導や進路指導を行う役割が教員にはあります。

このようにして、教員ひとりひとりの今日の教育が、子どもたちの自己実現につながる明日をつくり、私たちの社会の未来をつくるわけです。

私の専門は日本語の文法ですが、今から35年ほど前に、中国の北京で、日本語を教える大学の先生方120名に、4ヶ月ほど授業をしたことがあります。外務省の仕事でした。

それから30年後、今から5年ほど前に、私はアメリカのある都市にある小さな教員養成をしている大学を出張で訪ねました。先方の学長と学長室でお話しているときに、「私の大学には日本語ができる日本人スタッフがいません。しかし、日本語の授業をしている先生がいますので、本日、通訳として、来てもらっています」と言われて、ひとりの先生が学長室に招き入れられました。

なんと、35年前の北京での教え子でした。顔も名前もしっかり覚えています。「先生、お久しぶりです。お元気ですか。」「先生に教えてもらった日本語で今日は通訳頑張ります。」「えっ。どうしてここにいるのですか。」「いつからアメリカにいるのですか?」

私たちは、仕事そっちのけで、35年ぶりの偶然の再会を喜び合いました。一番びっくりされていたのは、訪れた大学の学長先生でした。そして、教員の仕事の素晴らしさを、3人で国や文化を越え語り合いました。この35年ぶりの再会は、まさに奇跡でした。ミラクルでした。

奇跡と言えば、「奇跡の人」と言われる、ヘレンケラーを皆さんは知っていますね。日本には3度来ています。75歳、3度目の来日の時には、勲三等瑞宝章を叙勲されています。奈良にも来られています。奈良のホテルに逗留され、東大寺の大仏にも行っています。ヘレンケラーは、その映画や演劇のタイトルともなった「奇跡の人」というフレーズからも、重い障害を乗り越えた「奇跡の人」だと捉えられることが多いかと思います。

しかし、映画や演劇の「奇跡の人」の原題は、「the Miracle Worker」というものです。ここで、よく考えてみてください。原題は「the Miracle Worker」というタイトルなのです。「奇跡のWorker」「奇跡の働き手」。そうです。「奇跡の人」は、ヘレンケラーに奇跡をもたらした家庭教師のアン・サリバン、サリバン先生のことなのです。

冒頭、私は、「これからの4年間、2年間が、どのような道のりになるのでしょうか」と問いかけました。その答えは、今日から皆さんがひとりひとり作りあげていくことになるかと思いますが、到着地点は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校といった学校教育の教育現場であると思います。

また、「皆さんは、教員を目指して本学に入学されました。」とも言いましたが、「私はちょっと違うぞ。」と思った方もおられると思います。その方は、是非、本学の授業などを通じて、この社会における教員の重要性、役割、魅力を知り、是非とも、教員を目指していただきたいと思います。大学に入ってから、じっくりと教員を目指すことを決断し、魅力的ですばらしい教員になっていった諸先輩がたくさんいます。

大学に入ってからの教員の道への決断、また、教員の道を目指していたが大学に入ってから迷うこともあるかもしれません。そのような過程を経ての教員の道への決断は、私は、大変意義深く、価値のあるものだと思います。それは、迷いを乗り越え、考え抜いての決断だからです。そういう方にこそ、教員になっていただきたいと思います。

「ようこそ、教育の大学へ。」

「ようこそ、奈良教育大学へ。」

本学教職員全員が、皆さんの「学び」を全力で支援します。一緒に「学び続ける教員」を目指し学びましょう。皆さんの奈良教育大学での「学び」が、豊かで充実したものになること、4年後、2年後、全員が教員の道を歩んでいることを確信して、告辞といたします。

平成30年4月3日  奈良教育大学長   加藤 久雄

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