平成30年度奈良教育大学卒業式・修了式 学長告辞 - 奈良教育大学

平成30年度奈良教育大学卒業式・修了式 学長告辞 大学紹介

大学基金
大 学
基 金
奈良教育大学基金
資料請求
資 料
請 求
資料請求
研究シーズ集
研 究
シ ー
ズ 集
研究シーズ集
大学紹介

平成30年度奈良教育大学卒業式・修了式 学長告辞

 

本日、ここに、晴れの日を迎えられました奈良教育大学教育学部を卒業されます248名の皆さん、また、大学院教育学研究科を修了されます57名の皆さん、卒業、修了、おめでとうございます。 ご来賓の柳澤元学長、奈良教育大学後援会の柏原会長様、金山副会長様、また、同窓会の中川副会長様、吉田副会長様、そして、今年度、ご退職されます鈴木名誉教授、谷口名誉教授にご臨席いただき、ありがとうございます。列席の宮下理事、岩井理事、浅田理事、佐藤監事、菅監事、和田副学長、佐野副学長、高橋副学長をはじめとする教職員一同とともに、皆さんの卒業、修了を心からお祝い申しあげます。あわせて、本日、この晴れの会場にお越しいただいておりますご家族や関係者の皆様にも、お祝いを申しあげますとともに、本日の卒業式、修了式の日を迎えるまで、皆様よりいただきました数々のご支援に対し、高い席からではありますが、心より、御礼申し上げます。

さて、日本では、「桜の植わっていない学校はない」と言われますが、それほど、桜の木は学校現場と深い縁があります。本日、既に、お気づきかと思いますが、講堂に上がってきます階段の横に、新しく植樹されました3本の桜が、お目にとまったかと思います。 本学は、昨年、平成30年が創立130周年にあたりますが、このたび、奈良教育大学同窓会より、創立130周年を記念して、桜など13本の木々が寄贈されました。ナラノヤエザクラ2本、枝垂れ桜3本、八重桜6本、たちばな2本の計13本です。そのうちの3本が講堂の前に植えられていたわけです。 13本のうち、特にナラノヤエザクラは、奈良に咲く八重の桜の総称ではなく、プルナス ベレクンダ アンチックの学名をもつ桜の品種のひとつです。ご存じのとおり、奈良師範学校の正門のナラノヤエザクラが、奈良の名所のひとつとして紹介され、本学とは深い縁のあるナラノヤエザクラであります。附属中学校の校章は、そのナラノヤエザクラをモチーフにしていますし、附属小学校もサクラが校章になっています。東大寺の知足院のナラノヤエザクラは、1923年に、国の天然記念物に指定されましたが、指定を受けた木は既に枯れてしまっています。ナラノヤエザクラは、大変、貴重な桜であるわけです。 このたび、同窓会のご尽力により奈良県森林技術センターよりナラノヤエザクラの芽を寄贈して頂き、本学の箕作先生が、バイオテクノロジーにより、培養し育てくださいました。技術教育専修の学生さんの中には それをお手伝いされた方がおられるのではないでしょうか。学問研究による新しい技術が、新しい命を引き継ぎ、このキャンパスの水や空気を吸って大きくなり、花を咲かせていくことに、教育の大学として、まさにふさわしく、うれしく思います。

ところで、このナラノヤエザクラを世に知らしめたのはひとりの女性であります。伊勢大輔という女性の歌人であります。その歌は、小倉百人一首の中にも収められていますので、みなさんも、一度は、耳にしたことがあるのではないでしょうか。

いにしへの 奈良の都の八重桜 けふ九重に にほひぬるかな

「奈良の都の八重桜」とナラノヤエザクラを詠み込んでいるわけです。もとは、勅撰集のひとつである「詞花和歌集」に収められている和歌で、今から千年ほど前に京都の御所で詠まれた和歌であります。毎年、京都の御所には、奈良から八重桜が届けられる習わしになっていて、その八重桜を受け取る役は、歌の得意な女房に限られていたそうです。この年、受け取り役は、最初、紫式部と決まっていました。源氏物語の作者の紫式部です。がしかし、式部は、この大役を新人の伊勢大輔に譲ったのです。紫式部の方が、十歳ほど年長の先輩にあたります。そこへ、藤原道長が、伊勢大輔に言います。「せっかく、受け取るのだから、歌を詠みなさい」紫式部は、名誉な役を譲らなければ良かったと不安になったかもしれません。「伊勢ちゃん、大丈夫? ちゃんと詠めるかしら。」「私が、役を譲ったことが、かえって、伊勢ちゃんを困らせている。」という状況だったのではないでしょうか。この時、この重圧を押しのけて、伊勢大輔が詠んだ歌が「いにしへの 奈良の都の八重桜 けふ九重に にほひぬるかな」であるわけです。「いにしえの古都 奈良の都から届けられた八重桜が 九重の宮中で 見事に咲き誇っていますよ」「今の世も このナラノヤエザクラのように 栄えていますよ」と、見事な歌を詠んだわけです。伊勢大輔が、この歌を詠まなければ、ナラノヤエザクラは、幻のサクラとなっていたかもしれません。千年前のことが、今を動かしているわけです。この歌のことから、みなさんに受け取ってもらいたいことが、ふたつあります。

これからみなさんは、大学を離れ、学校、企業、民間と様々な社会現場に出て行きます。その時、みなさんこそが、まさにナラから京都の宮中に向かったナラノヤエザクラだと思うのです。ナラノヤエザクラのみなさんは、四月からこの大学のある高畑とは別の地に、また、別の環境に飛び込んで行くわけですが、この時、それぞれの新しい地でも、サクラのもつ美しさを心に秘めて、その八重を九重に今以上に咲き誇っていただきたいと思います。 既にみなさんは、ひとりひとりが、ナラノヤエザクラのように見事な花を咲かせています。それは、奈良教育大学で学んだこと、泣いたこと、笑ったこと、うれしかったこと、その全ての経験だと思います。その学びを新たな地で、「けふ九重に 匂ひぬるかな」「今 また 見事な花を咲かせるよ」と、つき進んでください。もうひとつは、紫式部からチャンスをもらい、それを見事にやりとげた伊勢大輔のように、その場面場面で、しっかりとした実践力を発揮させてください。

桜を用いた染め物に、美しい淡いピンクに染め上げる「桜染め」というのがありますが、それは、決して、サクラの花びらを使って染められたものではないそうです。あの見事なサクラの花を集めて染料として使えば、布が染まるかというと、そうではないそうです。ピンクの色など、どこにも見つけることのできないサクラの小枝や幹の皮を煮詰めて染料とすることによって、初めて布がピンクに染まるのだそうです。

あの満開の美しいサクラの花 その花の色を作り出し 支えているのは 小枝であり 幹の部分なのであります。

四月になって 満開のサクラを 見ることが あるかと思いますが その時は 小枝や幹も 満開のサクラの花と 同じように 見てみてください。そして 愛でてください。さらには 足の下には 桜の木を支える根が あることも 思い描いてください。

「教育の大学」を母校とする皆さんは 学ぶということ 教えるということ そして 物事の表面だけではなく そのウラ側や背景も しっかりとらえて 前に進む ということを 何よりも大切に 奈良教育大学を 母校とすることに 誇りをもって 歩んで行ってください。

ナラノヤエザクラのみなさんを送る告辞とします。

平成31年3月25日  奈良教育大学長  加藤 久雄

お問い合わせ先
奈良教育大学 総務課
Tel:0742-27-9105
Fax:0742-27-9141
E-mail:hisyo-kikaku