令和5年度奈良教育大学大学院教育学研究科入学式 告辞(4月5日) - 奈良教育大学

令和5年度奈良教育大学大学院教育学研究科入学式 告辞(4月5日) 大学紹介

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 3年余りにわたった新型コロナウイルスの感染拡大。その困難を乗り越え、日々努力を重ねてこられた62名の皆さん、奈良教育大学大学院教育学研究科へのご入学、おめでとうございます。また、ご家族やご関係の皆様にも、本学教職員一同、心よりお祝い申し上げます。

 本日、4月5日は、二十四節気の一つ、「清明」です。「清らかで明るい」という字を書きます。「すべてのものが、清らかで生き生きとしている」という意味ですが、世界遺産と豊かな自然に囲まれた奈良教育大学に、希望に満ちた皆さんが、清々しい彩を添えてくれることを大変うれしく思います。どうか、人との対話、自然との対話、そして、文化遺産や学問との対話を、思う存分楽しんでください。

 さて、奈良教育大学は昨年4月、奈良女子大学と法人統合し、「国立大学法人 奈良国立大学機構 奈良教育大学」となりました。さらに、この1年の間、奈良先端科学技術大学院大学、奈良国立博物館、奈良文化財研究所、奈良工業高等専門学校、奈良県立医科大学、奈良県立大学、奈良県立橿原考古学研究所と連携・協力に関する協定を締結いたしました。また、奈良県、奈良市、奈良県内の企業、研究機関等とともに、「産地学官連携プラットフォーム」を設立しました。いずれも、大学院生である皆さんにとって、学修や研究の幅を拡げることに寄与するものです。
 さらに、この4月から、奈良女子大学にある機構本部の建物に新設した「交流テラス」が本格稼働しました。これは、両大学や関係機関、市民など、誰もが自由に使えるおしゃれな空間になっています。ユニークなイベントも開催されますが、人と交流し、研究のための発想を練ったり、学習指導案を構想したり、時には「何もしないということをする」ために、是非、利用してください。
 もうひとつ、「国際戦略センター」、愛称「奈良イスク」も、この4月に新設されました。これにより、海外の大学や研究者、留学生との交流がさらに拡がるものと思われます。ここにいる留学生の皆さんの支援も、引き続き行っていきます。

 これらは、両大学の規模が学際的な対話の推進に適していることを生かして、分野・組織の壁を越えた文理統合的視点の涵養と高度な専門教育を進めること、奈良の豊富な文化資源の活用と多様な学術機関・自治体・産業界等との組織的な連携の構築、さらに、国際的な交流と研究の強化を通じて、奈良の魅力や強みを活かす学びと研究を実現すること、そしてこれらを通して、学生と教職員が、地域や社会の多様な人々とともに、学び合い、支え合い、高め合う組織を形成すること、を掲げた本機構のミッションを実現するために講じたものです。どうか、奈良教育大学の中だけで大学院生活を送るのではなく、積極的に外へ出て、多くの多様な知見を吸収してください。

 さて、奈良教育大学大学院について話を戻します。
 教員養成大学の大学院は、もっぱら高い資質・能力をもつ新人教員の養成と現職教員の力量形成を目的とする「教職大学院」に移行するという、国の方向性に沿い、現在、全国ほとんどの都道府県で教職大学院が存在しています。
 その中で、奈良教育大学の教職大学院(専門職学位課程)は、ESD(持続可能な開発のための教育 Education for Sustainable Development)を主軸とし、どのコースで履修しても、ESDのエキスパートとして、学習指導要領に示されている「持続可能な社会づくりの担い手」、つまり、未来を生き、その未来を幸せなものにしていく資質・能力をもった子どもを育てられる教員の養成・研修機関です。

 ESDの実践は、定められた指導内容をそのまま教えるのではなく、教師自身の、あるいは子供と共に暮らす生活の中で、「これは教材になるのでは」、「この課題を解決すればきっと世の中や生活は明るく楽しいものになるはずだ」、といった眼差しで、「探す」ということと、「創る」ということを行う営みです。

 教職大学院生に求める高度な実践力は、指導内容を明確にし、教材開発や指導方法を創造的に開発し、実践する。そして行った実践を客観的に省察し、さらに改善を図っていく、というサイクルに表れます。その時、仮説となるのは理論であり、改善しようとして省察した結果は、それもまた新たな仮説として、次の実践で検証することになると考えます。つまり、仮説・検証で終了するのではなく、検証結果が再び仮説となり、実践を繰り返す。その時、拠り所ともなっている理論を書き換えたりすることも出てくるかもしれません。このことが、よく言われる「理論と実践の往還」であると思います。
 既存の理論を実践化する、という一方向ではなく、自分の実践によって新たな理論を導き、その理論もまた実践を通して書き換えていく、という意識を教職大学院で身に付けていただきたいと思います。それは、実践を対象とする「研究」を通して身に付くものだと考えます。

 修士課程は、世界遺産に囲まれた本学ならではのこれまでの取組、そして留学生を多く受け入れてきたこれまでの実績により、「伝統文化やその教育、国際理解教育を持続的に発展させ、関連する課題を探求・解決し、多文化共生社会の実現やSDGsの達成に貢献できる人材を育成すること」を目的に掲げています。教員養成大学の大学院としては、数少ない修士課程となりましたが、全国や世界からも注目される「教育大学の修士課程」として発展を期待しているところです。
 奈良の地にあり、ユネスコスクールであるという本学の利点を生かし、伝統文化やその教育、国際理解教育について、その両方を繋げ、日本人院生と留学生とが共修し合って、研究を深めてください。そして、修了後は、教育学修士という学位を誇って、研究を続けるとともに、様々な場で持続可能な社会づくりに貢献されることを期待します。

 学校教育のみならず、教育の究極は、世界の平和や人間の尊厳を持続可能にする人を育成することです。
 世界ではウクライナでの戦争によって、今なお、尊い命が多く失われています。また、貧困、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、感染症など、世界の平和や人間の尊厳を脅かす事象が多く発生しています。本学においても、ウクライナでの戦争に起因する、光熱費や諸物価の高騰により、大きな影響を受けています。
 しかし、奈良教育大学は、この困難を乗り越えて、教育や研究の質を保障し、大学院修了後も末永く皆さんを応援していけるよう、教職員、同窓会、そして奈良国立大学機構、一丸となって努力いたします。
 どうか、ご関係の皆様におかれましても、ご支援・ご協力を賜りますよう、高いところからではありますが、心よりお願い申し上げます。

 最後になりますが、昨年秋、文化勲章を受章された、榊裕之 本機構理事長はじめ、すべての教職員一同、皆さんの活躍と素晴らしい大学院生活を期待し、入学式学長告辞といたします。

 

令和5年4月5日
奈良教育大学 学長 宮下 俊也