新年のご挨拶
新年、明けましておめでとうございます。
これまで行ってきました賀詞交歓会ですが、昨年から始めた業務効率化のひとつとして皆様にお集まりいただくことを控え、学長の挨拶はこの書面をもって代えさせていただくこととしました。どうぞキャンパス内でお互いに新年を祝い、よき1年であることを願いながら賀詞を交歓していただければと思います。
2025年は奈良教育大学にとって「創基151年」にあたります。これまで本学の周年行事は1888(明治21)年の奈良県尋常師範學校創立を起点に行っていたこともあり(平成2年に刊行された『奈良教育大学史』も「創立百年史」となっています)、大学として昨年の150周年を記念する行事は計画しませんでした。
実は2年前の入学式直後、文化遺産教育専修に入学された山本隆萬さんが「1874(明治7)年に開設された『寧樂書院』こそが『奈良教育大学の歴史の淵源である』」と私に訴え、学生有志を集め「寧樂書院愛友会」を立ち上げ(顧問は板橋孝幸教授)、とりわけ「これまであまりスポットライトの当たってこなかった」寧樂書院の建築や当時の教育・文化に注目した研究を開始されました。約1年をかけたこの研究の成果は、昨年6月に行われた記念イベント『寧樂書院とその時代展』と、昨年末に発刊された『寧樂書院 150年の歩み』によって結実されました。学生の手によって、本学の歴史のみならず我が国の教育史として高い価値をもつ研究がなされたことに対し、学長として、ほんの僅かしか財政的支援を提供できなかったことを申し訳なく思い、その限られた条件の中でできることをやり遂げてくれたことに、あらためて心より感謝の気持ちをここにお伝えします。
さて、昨年末の12月25日、中央教育審議会では「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」の答申案(以下、答申案)が審議され、翌26日より意見募集が始まりました。大学進学者数は、2021年の62.7万人から2035年には59.0万人、2040年には46.0万人と減じていくことが見込まれ、また財政状況の厳しさも続く中、奈良教育大学は今後何を目指して歩んでいったらよいか、答申案で示された「質の向上」「規模の適正化」「アクセス確保」に沿って、私の考えのいくつかを述べます。
1.教育研究の質の向上について
令和6年3月学部卒業者の教員就職率は68.0%であり、前年度より5.7ポイント増加しました(いずれも進学者・保育士を除く率)。また、次年度予算に関わる「成果を中心とする実績状況に基づく配分」の「学部生の就職率・進学率」もかなり改善されました。嬉しいことです。一方、答申案では「単に『よい教育をしている』というだけではなく、『社会に出た後に評価される人材を育成している』ことを念頭に、学生の資質・能力を引き出し、どのように学修目標の達成に向けて指導していくか、という視点で教育課程をデザインすることも大学等の重要な責務である」と示されています。第4期中期計画では、「教員就職者に対する1年後の評価」を評価指標に掲げており、まもなく令和4年度卒業の教員就職者の活躍や課題等が明らかになります。この結果も踏まえ、令和8年度からの新教育課程を完成させたいと考えます。
その新教育課程は、本学の特色や強みを「大学基幹科目」(仮称)として反映させることや、教育課程外においても多様な学修の素地を培うために科目の精選を図るなど、検討が大詰めを迎えています。ここに至るまでの教育課程開発室のご尽力に感謝するとともに、最後はすべての教職員によって、学生に対する愛情と期待を込めて完成させていただくことを願います。
現行の教育課程においても、その学びを生かして地域社会に貢献する学生の活動が多くみられています。例えば、先月は幼年教育専修の3回生が奈良県総合医療センターの小児病棟でボランティアを行い、子どもたちや保護者の方々に笑顔を届けることができました。また、教養科目「フィールドワークで地域に学ぶ」で但馬牛博物館(兵庫県美方郡)を訪問した受講生が、農具や牛具等を説明した楽しいイラストパネルを作成し、同館内の農業遺産体験館に展示されました。いずれにおいても、学生にとっての奈良教育大学での学びは、学校教育の場はもちろん、それ以外においても人々や地方創生のためにも還元できること、そしてそこで得られる感動は教職に向かう強いモチベーションとなることを実感できたのではないかと想像します。
これらの他にも、本学ホームページのNewsに数多くの活動が掲載されています。先生方におかれましては今一度ご覧になり、引き続き、未来社会や教育の未来を担う人材に必要な資質・能力の育成として、社会貢献や国際貢献の場に学生を誘っていただきたくお願いいたします。基盤ができ上がった「なら産地学官連携プラットフォーム」においても、本学学生の社会参画が大いに期待されているところです(「学生×まち・企業」未来共創支援事業等)。
次に、教育研究において本学のエッジをどう際立たせていくかについて述べます。
ESD、理数教育、インクルーシブ教育に係る3つのプロジェクトは、社会的インパクトを創出するために関係教職員の努力が重ねられています。ESDは、ESD・SDGsセンター主導の下、ESDティーチャープログラムの全国的推進、近畿ESDコンソーシアムの牽引、ESDオンラインセミナーの継続的実施、国際シンポジウムの開催等による国際的発信、全国や地域でのユネスコクラブの活動などにより、外部からは「奈良教育大学と言えばESD、ESDと言えば奈良教育大学」と高く評価されるに至っています。半面、本学全体に対するESDマネジメントを一部の先生に任せきりであったことについて私自身深く反省し、次年度は学長とセンターを繋ぐ推進体制を強固に築き、推進を加速させたいと考えています。
理数教育については、奈良県立教育研究所から喫緊の課題とニーズを聴取したところです。新理数プログラムやSST等、数多くの実績を残してきた本学の理数教育ですから、今後は理数教育研究センターや自然環境教育センター等が一体となり、一部の児童生徒・現職教員に留まらず、そこから面として奈良県全域に広がりをもった理数教育の充実に尽力していただけるものと期待します。
インクルーシブ教育については、「鉄オタ倶楽部」の取組やその発信としての書籍の刊行は社会的インパクトをもたらす可能性が十分にあるものと考えます。「奈良教育大学ダイバーシティ・インクルージョン推進宣言」は、本学のみならず、本学が社会に対して広く実現をもたらした時、真に社会的インパクトとなるものと思います。
この3つは、「誰一人取り残すことのない教育」として共通性があり、それらの融合や協働的な取組をも実現できれば、本学でしかできない強みとなってより際立たせることができるでしょう。さらに、現在ソフトバンク株式会社と計画している学校DXや大学DXとのかけ合わせができればなおさらです。
次に研究についてです。「成果を中心とする実績状況に基づく配分」では、「研究業績」「科研費獲得」「受託・共同研究」においては「伸び率」「伸び幅」ともに低下傾向あるいは低位にあります。研究業績の数と伸び率・伸び幅の一体的な上昇はなかなか難しいところがありますが、先生方の研究内容や方法、そして研究に邁進する姿は、課題を見つけ解決していくことにある教職の本質や魅力として学生に伝わっていくものと信じます。前述した業務効率化を着実に進め、研究に費やす時間を少しでも捻出できるよう努力いたしますので、引き続きのご尽力をお願いいたします。
また、奈良女子大学の先生方との近接領域あるいは異分野を融合した共同研究や、各附属学校園教員と大学教員との協働による実践研究のさらなる推進も大いに期待いたします。
2.「規模」の適正化と「アクセス」確保について
本年度実施の総合型選抜では、条件を緩和したことなどにより志願者が増加したことはよかったことです。しかしながら、18歳人口の急激な減少が進み、教職志望者の減少に歯止めがかかるかどうかも見通せない中、単科教員養成大学として教育研究の質を担保しつつ現在の「規模」を維持していくことは難題です。しかし、それを克服し、本学の新たな価値を創造していかなければなりません。今のところ考えられる方途は、①教育IRによる現状分析、②新教育課程に向けてのさらなる科目の精選や、奈良女子大学を含む他大学との科目等の共同運用、③大学院改組後の検証と奈良女子大学大学院との共同運用、④新たに協定締結した海外大学からの留学生の受け入れ、⑤「なら産地学官連携プラットフォーム」によるリカレント教育講座を本学も積極的に推進するとともに、社会人に対する教育学部及び大学院へのアクセス確保(3ポリシーの改訂が伴いますが)、⑥附属学校園については、「外部評価委員会」からいいただく経営・教育・研究・教員養成等についてのご意見を受けての検討、等が挙げられます。
これらについては、執行部(副学長・学長補佐)やセンター長をはじめ、すべての教職員との議論を経て、先送りすることなく、できることから実行していきたいと考えます。是非、積極的な議論をお願いいたします。
これから始めようとする改革は、18歳人口の減少や財政的な課題に対応する側面もあります。質の高い教育課程を用意し社会の期待に応える教員養成を遂行することや、本学ならではのエッジを際立たせていくことは志願者の増加にもつながるものと考えます。また、研究の量的・質的充実は外部資金の獲得にも結びつくものです。一方、たとえそのような課題がなかったとしても、本学の使命として、国や地域の教育や次代を担う教員の養成・研修の発展のために、改革し続けなければなりません。厳しさや苦しさも伴いますが、学長として最大限の努力をいたしますので、皆様のご理解とご協力を賜りたく心よりお願い申し上げます。
最後になりますが、創基151年、創立137年を迎える奈良教育大学の2025年がさらなる飛躍と発展の年になるよう、そして本学に集うすべての皆様の幸せと健康を祈念し、新年のご挨拶といたします。
令和7年1月7日
奈良教育大学 学長 宮下 俊也