平成23年度卒業・修了式を挙行しました。 公開日  :  2012-04-01 09:08

なっきょんの大学レポート

 平成24年3月23日、奈良教育大学講堂において、平成23年度卒業式及び修了式を挙行しました。小雨が降る、少し肌寒い日となりましたが、真新しいスーツ姿、あでやかな着物姿の卒業生たちが、まだ少しつぼみの固い桜に代わって、華やかに会場を演出していました。

  式では、学歌斉唱の後、教育学部卒業生275名の総代として米谷葵さん、大学院教育学研究科修了生66名の総代として東畠代次郎さん、特別支援教育特別専攻科修了生9名の総代として小山悦子さんに長友恒人学長からそれぞれ卒業証書・学位記、修了証書が授与されました。

  続いて、学長告辞で、「生涯にわたって学ぶ意欲を持ち、他者と一緒に働く方法を知り、自分とは異なる考え方があることを理解し、間違えを正すことを恐れず、社会への参加意識を高めることを心に刻んでほしい」と社会の一員として巣立つ卒業生らにエールが贈られました。
 在学生総代として学生自治会執行委員長 檜垣勇佑さんが送辞で先輩たちへの感謝を述べた後、卒業生及び修了生総代として川合彩香さん(教育学部)から、人との出会いがかけがえのないものとなって成長できたこと、教育実習やスクールサポート活動を通じて、子どもたちから“先生”と笑顔で呼ばれたことが“夢”を後押ししてくれたことが想い出として語られ、最後に「この先訪れる出会いを大切に、幅広く社会に貢献していきたい」と決意が述べられました。

 卒業・修了生の皆さん、おめでとうございます!
 本学で得られた宝物を大切に、ご活躍されることを心よりお祈りいたします。

 
学長告辞を聴く卒業・修了生たち                     音楽科学生の伴奏・合唱と共に学歌斉唱

■ 学長告辞
  本日、ここに、赤井逹達郎元学長先生、大久保哲夫元学長先生、西田同窓会長様、神木後援会会長様をはじめ、多くのご来賓の皆様にご臨席いただき、平成23年度卒業証書・学位記及び修了証書授与式を挙行できますことは、本学教職員にとりまして大きな喜びであります。
 ただいま、教育学部275名、大学院教育学研究科66名、特別支援教育特別専攻科9名、合計350名に卒業証書、修了証書を授与いたしました。

 卒業生、修了生のみなさん、おめでとうございます。大学教職員を代表してみなさんの卒業・修了を心から祝福いたします。また、ご列席の保護者の皆様におかれましても、ご子弟の晴れ姿に感慨もひとしおのことと、心からお慶び申し上げます。

 さて、現在、産業・経済を軸とする生活は複雑化し、混迷を深めているように見えます。この状況を、「科学技術から経営、社会システムに至るまでパラダイムの転換をもたらすブレークスルーを模索しなければならない厳しい環境」と表現したのは、中央教育審議会大学分科会の「大学教育部会」が今月とりまとめた審議のまとめ、「学士課程教育の質的転換の確立」であります。
 ブレークスルーを模索しなければならないのは、科学技術や産業・経済だけではなく、教育の面においても、同様であります。

 OECDが2000年から実施している学習到達度に関するPISA(Program for International Student Assessment)調査をご存じのこと思います。PISAの分析報告として、「PISAから見る、できる国・頑張る国 ---トップを目指す教育」という報告書が昨年の6月に出版されました。英語の原題を忠実に訳しますと、「教育におけるトップクラスの国と改善が著しい国:合衆国がPISAからの学ぶこと(Lessons from PISA for the United States)」というアメリカ向けの報告であります。最近、同書の「Lessons from PISA for Japan」という日本向け報告書の日本語訳も出版されました。いずれもOECDのHPから英語版をダウンロードすることができますので、一読をお薦めします。
 Lessons from PISA for the United Statesには、アメリカの他、カナダ・オンタリオ州、上海、香港、フィンランド、日本、シンガポール、ブラジル、ドイツ、イギリス、ポーランドが取り上げられ、附章として韓国が取り上げられています。
 同書によりますと、シンガポールは、「考える学校、学ぶ国家 (Thinking Schools, Learning Nation) 」という教育ビジョンを持っています。「考える学校(Thinking Schools)」とは、若者の創造的思考力を伸ばし、生涯にわたって学ぶ意欲を持ち、国への参加意識を高めることができる学校システムのことである。」と説明されています。
 フィンランドは人口約540万人で、日本より少し小さい国土がスウェーデンとロシアに挟まれており、苦難の歴史を歩んだ国でありますが、PISAでトップクラスの成績を維持し続けている国であることは周知の通りです。携帯電話端末で世界一のシェアをもつ電気通信機器メーカー、ノキアの経営幹部でもあるサールベリ氏が、フィンランド国家科学カリキュラム対策委員会の委員長を務めていた時期の発言に次のものがあります。企業が、「他人と一緒に働く方法を知らない者、異なる考え方ができない者、独自のアイデアを生み出せない者、そして間違いを犯すことを恐れる者、こういう人を企業が雇った場合、企業ができることは何もない。」というものです。
 この報告書の日本に関する章では、合衆国が日本から学ぶべきこととして12項目が挙げられています。その中で、日本は「教育が国の将来にとって重要であるという信念を(国民が)共有していること」、「遺伝的に受け継がれた能力より努力を重視する」、「教員による授業研究が専門的力量、質の高い授業を保証している」、「生きるための道徳教育」が含まれています。ここで、「道徳」は原文ではモラルです。私たち日本人の儒教的感覚の「道徳(モラル)」とは少しニュアンスが違って、勤勉さと粘り強さ、チャレンジすること、奉仕の行為、他者を助けること、謙虚さ、等を指していますが、そのようなことが、日本から学ぶべき教訓として挙げられています。「モラル教育」は社会生活の多くの場面、例えば、商業における倫理感、健康管理、持続可能な環境にまで大きな影響を与えている、と指摘しています。東日本大震災の発生直後に被災者が秩序ある行動を取ったことに対する諸外国からの反応を重ね合わせて考えるとき、日本の教育に関する特筆すべき特徴として取り上げられていることに改めて注目する必要があります。
 以上、ごく一部を紹介しましたが、PISAのトップクラスの国々から合衆国が学ぶべき教訓として、共通して強調されていることは、「生涯にわたって学ぶ意欲を持ち、他者と一緒に働く方法を知り、自分とは異なる考え方があることを理解し、間違いを犯すことを恐れず、社会への参加意識を高めること」とまとめることができるでしょう。
 このことは、今日、卒業・終了して社会の一員として旅立つみなさんに、心に刻んでいただきたい言葉です。「生涯にわたって学ぶ意欲を持ち、他者と一緒に働く方法を知り、自分とは異なる考え方があることを理解し、間違いを犯すことを恐れず、社会への参加意識を高めること」を大学・大学院での学びの延長の基本としてください。

 「21世紀は知識基盤社会である」と言われますが、教師として、あるいは社会人として、「専門知識とスキル」は、他者と一緒に働く方法を知り、自分とは異なる考え方があることを理解して、「他者の専門知識とスキル」と有機的に関連づけたときに大きな力を発揮します。スペシャリストは自分とは異なる分野のスペシャリストを理解したときに初めて、「知識基盤社会」において有能なスペシャリストとして、力を発揮することができます。ふたつのスペシャリティを橋渡しするものは「教養」であり、ひとつのスペシャリティをもつあなた方一人ひとりと他のスペシャリストを結びつけるものは「人としての豊かさ」であろうと思います。精神的な、また、知的な「人の豊かさ」を保証するものは、学び続けることによって獲得することができる「教養」であります。専門知識とスキルに加えて、豊かな「教養」を自分のものにしたとき、プロフェッショナルな高度な職業人となることができるでしょう。

 学びは生涯を通じて継続されるものです。みなさんが、明日からも、幅広く知識を吸収し、また、体験する「学び」を継続することによって、21世紀を担うプロフェッショナルな社会人となることを期待します。

 みなさんの未来が、輝く未来であることを確信して、告辞といたします。

最終更新 : 2022-05-11 10:00