平成24年度入学式を挙行しました。 公開日  :  2012-04-06 09:04

なっきょんの大学レポート
 平成24年4月5日、奈良教育大学講堂において、平成24年度入学式を挙行しました。時折強風が吹くあいにくの天気でしたが、教育学部274名、大学院教育学研究科92名、特別支援教育特別専攻科10名の合計376名が、本学での新しい生活をスタートさせました。
 長友恒人学長は、告辞の中で「大学における知的体験、実践的体験は困難にぶち当たったとき、解決の糸口を切りひらく潜在的な力になります。それは、また、人生を楽しく、豊かにします。広い視野をもって、大きすぎるくらいの目標を掲げて、楽しく学び、体験を広めてください。」と新入生にエールを送りました。
 式終了後は、講堂前にできたクラブ勧誘の花道に迎えられ、どのクラブに入ろうかと目を輝かせる姿が印象的でした。

平成24年度入学式の様子  クラブ勧誘の花道  入学式会場の様子                           クラブの勧誘を受ける新入生

■ 学長告辞
  

 本日、ここに、ご来賓として、赤井元学長、大久保元学長、柳澤前学長先生をはじめ、名誉教授の先生がた、同窓会の会長・副会長様のご列席の下、平成24年度の入学式を挙行できますことは、本学教職員の大きな喜びであります。

 

 本年度は、教育学部274名、大学院教育学研究科92名、特別支援教育特別専攻科10名、合計376名の入学生を迎えることができました。本学教職員を代表して、みなさんの入学を心から祝福し、歓迎いたしますとともに、みなさんの学びと研究に対する指導・助言、大学生活に関する相談と援助について最大限の努力を惜しまないことをお約束いたします。

 

 さて、ご承知の通り、今年度から教育学部の入学定員255名をすべて学校教育教員養成課程といたしました。学校教員の需給の状況から判断してのことでもありますが、教育理論の理解、教科の専門的力量の強化に加えて実践的な教育力を身につけたプロフェッショナルな教師として教育界に送り出すことを全学的な目標としたいということであります。大学院教育学研究科、特別支援教育特別専攻科に入学されたみなさんを含めて、これから教員となる人たちは、21世紀の日本と世界を担う子ども達を育成する高度な専門性を備えた教育者としての力量が求められます。

 

 学部入学のみなさんは、小学校から高等学校まで12年間の教育を受けてきました。この12年間の学びと大学での学びはどう違うのでしょうか。高校までの学びは、これまで人類が築いてきた歴史の成果、とりわけ学問の成果を吸収し、自分のものとして組み立て直すことが主な目標でありました。大学での学びは、「自らの関心に焦点を当て、課題を発見し、その課題の解決に向けて自ら解答を模索する」という研究の要素が加わります。大学での学びの目標は、教室で先生から教えてもらうだけで到達できるものではありません。高校までの学びを「学び習う」学習と書き、大学での学びを「学び修める」学修と書く所以であります。興味・関心に従って教室から飛び出して下さい。極めるために、大学の外にも学びの場を見つけて下さい。海外に学びの場を求めるのも大いにお薦めしたいことです。

 大学院と特別専攻科のみなさんは、既に研究の手法を身につけていると思います。さらに磨きをかけて、もう一段の高みに上っていただきたいと思います。

 

 ここで、最近の私の「学びの体験」をお話ししたいと思います。

 2006年から今年の3月まで6年間、「環境変化とインダス文明」という総合地球環境学研究所の大型プロジェクトに参加させてもらいました。 このプロジェクトは、“現在のパキスタン領にあるインダス川流域のハラッパー遺跡やモヘンジョ=ダーロ遺跡に代表されるインダス文明は世界四大文明の一つとして知られていますが、インダス川流域だけではなく、インド西部のガッガル川沿いやグジャラート州など、日本列島の約2倍にあたる68万平方キロにわたってインダス文明の遺跡がひろく分布しています。インダス文明は、他の古代文明と異なり、紀元前2600年から約700年間しか続かず、紀元前1900年頃に急速に衰退しました。環境変化を中心にインダス文明が短期間で衰退した原因を解明し、長期的な環境変化が文明に及ぼす影響をあきらかにすることによって、現代の環境問題の解決に資すること”を目的とした研究でありました。

 ガッカル川流域の現地調査を含めて年代測定研究者として参加したこの研究プロジェクトから学んだことがいくつかあります。

 ひとつは・・・このプロジェクトは6つの研究グループで構成されています。考古学を中心とする物質文化、農業生産を再現する生業、現在に繋がる伝統文化、過去の水環境を探る古環境、そして遺伝学の6つでありますが、プロジェクトリーダーの長田俊樹教授のご専門は民族言語学です。言語学者がインダス文明の衰退を解明しようとしたとき、自分の学問領域に固執することなく、広く考古学・植物学・民俗学・地形学・遺伝学などの分野にも視野を広げたという総合的・学際的な発想がプロジェクトの成功を保証しました。専門領域を深く解明しようとするとき、自分の領域に閉じこもるのではなく、他の関連領域と協同することによって新しい展開があるという好例でありました。

 もうひとつは、楽しみながら学ぼうとする姿勢です。遺伝学の研究グループはプロジェクトの終了期限までに結果を出すことができなかったのですが、最終報告会で最も活発に質問をしたのは遺伝学のコアリーダーでした。コアリーダーはDNA解析結果を出すことができなくても、プロジェクトのトータルな目的が達成されることに多大の関心をお持ちのように見えました。彼の質問は研究会を活気づけてくれたのです。

 また、このプロジェクトの成功は、人生の楽しいことやうれしいことのみを記憶するという楽天的なプロジェクトリーダーの下で、チームとしてのコミュニケーションが円滑であったことにひとつの要因がもとめられるであろう、と思います。日常的なコミュニケーション、定期的な意見交換はひとつの目的に向かって協同して取り組むときの不可欠な要素であります。

 

 自ら学び続けるためには、学ぶ目的が明確であることが必要です。それに加えて、楽しいということが必要です。義務的な「ねばならない」では継続できないし、発展的な考えは浮かびません。学ぶ目的を見極めるためには、自分がやろうとしていることの位置づけを考えることが重要です。例えば、教師になろうとする場合に、教育全般の中でどのような特徴ある専門性を自分のものにするのか、ということを考えることは目標設定の有効な方法になるでしょう。

 その学びを深めるためには、「裾野」を広げることが必要です。学びを深める方法はひとつだけではありません。大学の授業の他に、課外活動に、フィールドワークに、ボランティアに、取り組んでください。自分とは異なる視点からの考え方にヒントがあるかもしれません。課題によっては、海外に出たり、留学生とディスカッションすることも効果的かもしれません。いろんな本を乱読してください。学生時代の知的体験、実践的体験が多ければ多いほど、専門についての理解が深まります。

 学びには一人でする学びとチームで行う学びがあり、どちらも必要であり有効です。思索が必要なときはひとりで寝食を忘れることもあるかもしれません。グループで行う場合には、何よりもコミュニケーションを密にして自分の役割を意識することがよりよい結果を生みます。学習・研究環境の中における友人関係の他、課外活動の中での人間関係もチームプレイのための社会性を身につける良い機会です。

 答えが浮かばない、解決の方法が見つからないことがしばしばあるかもしれませんが、焦る必要はありません。自分で答えが出せないときに、友人、先輩、先生が解決のきっかけを与えてくれるかもしれません。難しい課題に立ち向かうときに重要なのは考えるプロセスです。答えのない問題もあるのだということを理解しておくことも必要かと思います。

 

 大学における知的体験、実践的体験は困難にぶち当たったとき、解決の糸口を切りひらく潜在的な力になります。それは、また、人生を楽しく、豊かにします。

 学生時代にどれだけ広く、また深く、いろいろな世界を知り、体験したかということが、社会人になった後にも学びを継続してプロの職業人として成長を続けることができるかどうか、人生を豊かにするかどうか、の礎になることを強調しておきたいと思います。

 広い視野をもって、大きすぎるくらいの目標を掲げて、楽しく学び、体験を広めてください。

 

 みなさんの奈良教育大学での生活が、豊かで、充実したものになることを希望して、告辞といたします。

学長告辞に耳を傾ける新入生  告辞を述べる長友学長

最終更新 : 2022-05-11 10:00