平成26年3月25日、奈良教育大学講堂において、平成25年度卒業式及び修了式を挙行しました。
長友恒人学長からは、「明日からも幅広く知識を吸収し、実践を通した学びを継続して、プロフェッショナルな社会人として成長することを期待します」とエールが送られました。
卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。
本学で得られたものを生かしご活躍されることを、心よりお祈りいたします。
【卒業・修了生】
告辞を述べる長友学長 式典前に友人との時間を楽しむ卒業生
■ 学長告辞
大学での生活を振り返ってみると、特別の時を除けば、いつも他者との関わりの中で様々な活動のときを過ごしたことがわかると思います。他者との関わり、言い換えればコミュニティーの中で成長した大学生活です。
二人以上が集まればコミュニティーが形成されます。学問的に正確な定義は他に譲るとして・・・親しい友人・恋人同士は最小規模のコミュニティーでしょう。家族、学校、企業、地域、国家、世界へとコミュニティーは広がっていきます。幼かった頃から今日まで、家族、友人、学校、大学、というコミュニティーのなかで成長してきたみなさんは、明日から今までよりも遙かに広く複雑なコミュニティーのなかに身を置くことになります。
時間軸でコミュニティーの発展をみると・・・現生人類であるヒトは、その誕生から現在までに、他の動物には見られない、自分たちでもコントロールし難いほどの極めて複雑なコミュニティーを形成してきました。
その結果としての現在のコミュニティーの拡がりと構造は非常に複雑です。特に、政治・経済が絡むと、その複雑さは極めて深刻です。アフリカの現状やシリア、ウクライナ情勢を見るまでもなく、東北太平洋沖地震と福島原発事故後の日本、最近の近隣諸国との関係においての日本が置かれている状況は複雑であると同時に混迷を極めています。私は社会学者ではありませんから、コミュニティー論を展開するつもりはありませんが、みなさんが明日からその一員となる学校や企業などの身近なコミュニティーに限定して考えてみたいと思います。
(これからの話は教育を中心に話をしますが、その他の職場に就職する人や進学するみなさんにも共通していますので、言葉を置き換えて聞いて下さい)
学校コミュニティーを形成する人たちは、児童・生徒、同僚教師、上司である学校の管理職、保護者、教育委員会等ですが、近年はスクールサポーターや学校ボランティア、地域の人たちが学校コミュニティーの構成員として重要なファクターになっています。
明日からみなさんはそのコミュニティーの一員となりますが、コミュニティーのなかで必要なこと(資質・能力)は何でしょうか。
まずなによりも必要なことは専門的な力量です。教職の専門性と教科指導の専門的力量、どちらも教師の基礎を成す必須の専門性です。大学での学びが基礎になりますが、大学での学びが不十分であったとしても焦ることはありません。大学の限られた時間の授業ですべてを学ぶことは不可能だからです。大学では「学び方」を学んだはずです。その「学び方」を基礎にこれからも学び続けて下さい。壁にぶつかり、失敗しながらも新しい学びを発見できたと感じることできたら、みなさんのこれからの成長は保証されます。
2つ目に必要なこととして、広い意味での「リーダーシップ」を挙げたいと思います。集団を指導し牽引することだけが「リーダーシップ」ではありません。そのようなリーダーシップは経験を蓄積した教師にしかできないことです。では、若い教師のリーダーシップとは何か?佐藤学氏の「学びの共同体」論や池田寛氏の「教育コミュニティー」論に共通しているのは何か?それは、学校教育は学校という閉じた空間の中では完結できない、ということです。学校コミュニティーの一員として、コミュニティーの構成員を繋ぐ力、それが若い人のリーダーシップです。自分とこども達、自分と同僚教師、自分と保護者、こどもとこども、保護者と保護者、学校と保護者、学校と地域の人たち、といった多様な「繋がり」の関係を導く力が若手のリーダーシップです。そのために必要な技能のひとつが「コミュニケーション力」です。「コミュニケーション」の基礎は、相手の言動を理解する力です。「発信」する前に「受信」する力が重要です。
3つ目に必要なことは、「学び続けること」です。ハウツーものは当座の役には立ってもあなたの成長に役に立ちません。教養をベースにした学びを継続することが必要です。教養をベースとした学びは、他者から押しつけられて「勉強」するものではなく、自らの主体的な行為として「学ぶ」という点に特質があります。学びを継続する「コツ」は学びを楽しむということです。明日からの生活の中でも、ハウツーものやマニュアルものの向こうにあるもう一段高い学びを、楽しみながら継続していただきたいと思います。身についた知識、豊かな教養は自分を成長させ、他者を納得させる力を持っています。
最後に、評価の方法、人を見分ける力が必要です。言動、言と動、言葉と行動。ひとを評価するとき、何を言ったかではなく、どう行動したかを評価の基準にすべきです。知識さえあれば言葉としては表現できます。しかし、身についた素養の結果としての行動がその人の為人(ひととなり)を示します。結果を残すのは言葉ではなく、行動です。他者をみると同様に、あなた自身も言葉ではなく、自分の行動の変化によって成長を確認すべきことを念頭に置いて下さい。
以上、教師に焦点をあてて申しましたが、プロフェッショナルな職業人としてどの分野にも当てはまることであります。
世界的に著名な理論宇宙物理学者である佐藤文隆氏は、「科学が社会で権威とみなされているのは、産業、医療、安全、安心などの場面で存在感を発揮しているからである。」と述べておられます。
教育の問題は、誰でもが各人なりの意見を持っているという点でサイエンスとは異なりますが、教育が社会において存在感を示すためには教育のプロフェッショナルとしての教師の専門性と力量が問われます。
みなさんが、明日からも幅広く知識を吸収し、実践を通した学びを継続して、プロフェッショナルな社会人として成長することを期待します。
学びを楽しみ、学びを継続することによって、諸君の輝く未来が開かれることを信じて、告辞といたします。
平成26年3月25日 奈良教育大学長 長友 恒人