平成26年度卒業・修了式を挙行しました。 公開日  :  2015-03-25 15:14

なっきょんの大学レポート

 平成27年3月25日、奈良教育大学講堂において、平成26年度卒業式及び修了式を挙行しました。

 長友恒人学長からは、「明日からも幅広く知識を吸収し、実践を通した学びを継続して、プロフェッショナルな社会人として成長することを期待します」とエールが送られました。

 卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。

 本学で得られたものを生かしご活躍されることを、心よりお祈りいたします。

【卒業・修了生】

  • 教育学部 266名
  • 大学院教育学研究科 67名 (修士課程50名、専門職学位課程17名)
  • 特別支援教育特別専攻科 13名

卒業式写真2  卒業式の様子1
告辞を述べる長友学長              式典前に友人との時間を楽しむ卒業生

■ 学長告辞


 卒業生、修了生のみなさん、おめでとうございます。大学教職員を代表して皆さんの卒業・修了を心から祝福いたします。また、ご列席の保護者の皆様におかれましても、ご子弟の晴れ姿に感慨もひとしおのことと、心からお慶び申し上げます。

 さて、学部卒業生のみなさん・・・4年前のみなさんの入学式で、私が話をした内容を記憶していますか?・・・2008年にノーベル物理学賞を受賞された益川先生のお話をいたしました。「井の中の蛙の弁証法」という話題でした。少し復習してみましょう。

 「井の中の蛙」の蛙は、「自分の経験だけに基づく狭い知識にとらわれて、広い世界を知らないこと」のたとえですが、・・・益川先生は、「この蛙をつかまえて、井戸の外に置いてやったら、どうなるか?」と益川流に話を展開させました。井戸の外で、「井戸の中の世界とは違う世界があるんだな。」と気がついた蛙は、「もっと向こうに行ったら、違う世界が見えるかも知れない。」とピョン、ピョンと跳ねながら考えを発展させました。このような、「概念の自己運動」によって、この蛙は自分が依って立つところを知る(自分を相対視できるように)なるのですが・・・大学における学習はこれに似たところがある・・・ということをお話しいたしました。

 「在学中に専門を高めて井戸の隅々まで知り尽くし、空を見上げて専門性の奥の深さを感じていただきたいと思いますが、同時に、井戸の外にも出てください。ひとつの専門だけに集中するのではなく、少し違う世界をのぞき見ることで、自分の専門の理解が深まるし、また、自分の専門の位置づけができるようになるでしょう。」と申しました。

 大学の授業で用意されているカリキュラムには「限り」があるので、課外活動に、フィールドワークに、ボランティアに、取り組んでください・・・と申しました。いろんな本を乱読してください。学生時代の知的体験、実践的体験が多ければ多いほど、専門についての理解が深まることになります。知的体験、実践的体験は井戸の外の大海に出て困難にぶち当たったとき、解決の糸口を切りひらく潜在的な力になります。それは、また、人生を楽しく、豊かにしますも・・・と申しました。

 学生時代にどれだけ広く、また深く、いろいろな世界を知り、体験したかということが、四年先に社会人になった後、プロの職業人として成長を続けることができるかどうか、人生を豊かにするかどうか、の礎になることを強調しました。

さて、その後今日まで、みなさんの4年間はどうだったでしょうか?

 学部を卒業するみなさんが入学した平成23年(2011年)4月は、3.11東北地方太平洋沖地震の直後でありました。

 私は、震災後、被災地に2度訪れる機会がありました。震災2年3ヶ月後に宮城県の石巻から女川町を経由して海岸に沿って車で北上しながら見た景色は新しい家屋も立ち並んで一見かなり復興しているように見えましたが、現地をよく知る人は、「福島原発事故の影響がなかった地域においても復興は未だに緒に着いたばかりです。」だと言われました。特に、コミュニティーの復興が遅れていると聞きました。

 3.11大震災があったその年の夏から毎年、本学は、「東北教育復興支援ボランティア」として、宮城県を中心とする小中学校の学習支援をしてきました。みなさんの中にも、その学習支援ボランティアの活動に参加した人がいます。また、大津波の被害を受けた岩手県陸前高田市のひまわりの種を奈良県内の有志に栽培してもらって食用油にして陸前高田に送る「ひまわりプロジェクト」にも多くのみなさんが参加したことと思います。

 「東北教育復興支援ボランティア」や「ひまわりプロジェクト」は、「震災からの復興」にとっては取るに足りない小さな貢献であるかもしれませんが、このようなボランティア活動に参加したみなさんにとって、「概念の自己運動」によって自分が拠って立つところを知るよい機会になったでしょう。また、スクールサポート認証制度の研修を受けて奈良市や県下の学校支援に参加した人、その他、様々な支援活動、ボランティア活動に参加した人もいます。学生時代のこのような活動は、これからの社会での活動の基礎となる大きな財産です。

 このような課外の活動のなかで、「ひとりひとりのこどもに即して指導することやその場に応じて人と接することの難しさ」を体験すると同時に、「そのなかで協働して何かをつくりあげていくことの充実感」を味わったのではないでしょうか。既存の組織・コミュニティーに参加して、仲間と協働してさらに一段高いコミュニティーを作り上げることを目指してください。

 そのことに関係して、ここで、私が最近興味を持って読んだ本のひとつを紹介したいと思います。(隠れたベストセラーかもしれません)

 16世紀の中頃、フランスのエティエンヌ・ド・ラ・ボエシという人が著した「自発的隷従論」という小論あるいは長編のエッセーです。16世紀の動乱の中の混迷したヨーロッパという時代的制約と弱冠18歳前後の頃に書いたということもあって、その評価は様々のようです。訳者(山上浩嗣氏)によれば、「多数の民衆が人間の本性の一部である自由を放棄してまで、たった1人の暴虐な圧制者に進んで隷従するという逆説の理由」に関する論考ですが、政治論というよりは幅広い教養と天性的な直感によるエッセー的な内容であり、示唆に富む記述が多いことも事実です。

 ボエシが本書で指摘しているのは、「多数者が自ら進んで支配秩序に身を置くことによって圧政が成立する」、東洋流に言うならば、「圧政は、人々が『寄らば大樹の影』という考えに身を委ねることによって成り立つ」ということですが、「共同的な存在としての人間のありよう(組織的な職場・コミュニティーのなかで自分の立ち位置と行動)」を考えるとき、「流れに身を委ねることなく、常に振り返りを忘れるな」・・・という風に解釈してもいいかとも思います。みなさんのこれからの人生において参考になるかもしれません。

 さて、最後になりますが・・・明日からみなさんは学校をはじめとする社会=コミュニティーの一員となります。コミュニティーのなかで必要なこと(資質・能力)4つ挙げたいと思います。

  • 第1に必要なことは専門的な力量です。教師で言えば教科の指導力です。専門性は大学での学びが基礎になります。大学のカリキュラムですべてを学ぶことは不可能ですが、大学では「学び方」を学んだはずです。その「学び方」を基礎にこれからも学び続けて下さい。
  • 2つめは、広い意味でのリーダーシップです。若い教師や社会人のリーダーシップとは何か?
    コミュニティーの一員として、コミュニティーの構成員を繋ぐ力・・・それが若い人のリーダーシップです。教師であれば、自分とこども達、自分と同僚教師、自分と保護者、こどもとこども、保護者と保護者、学校と保護者、学校と地域の人たち、といった多様な「繋がり」の関係を導く力が若手のリーダーシップです。そのために必要な技能は「コミュニケーション力」です。コミュニケーションでは「発信」する前に「受信」する力が重要です。
  • 第3に必要なことは、「学び続けること」です。教養をベースにした学びを継続することが必要です。学びを継続するコツは学びを楽しむということです。明日からの生活の中でも、ハウツーものやマニュアルの向こうにあるもう一段高い学びを、楽しみながら継続していただきたいと思います。豊かな教養は自分を生長させ、他者を納得させる力を持っています。
  • 最後に、人を見分ける力が必要です。ひとが何を言ったかではなく、どう行動したかを評価の基準にすべきです。行動がその人の為人(ひととなり)を示します。自分についても、知識や技能が増えたということだけでなく、自分の行動が変化したかどうか(こどもへの接し方、同僚との関係が改善したか)によって自己の成長を確認する習慣を身につけて下さい。

 以上、教師になる学部卒業生に焦点をあてて申しましたが、プロフェッショナルな職業人として大学院と特別専攻科を修了する人にも、どのような職業にも当てはまることであります。

 みなさんが、明日からも、幅広く知識を吸収し、実践を通した学びを継続して、プロフェッショナルな社会人として成長することを期待します。

 学びを楽しみ、学びを継続することによって、諸君の輝く未来が開かれることを信じて、告示といたします。

平成27年3月25日  奈良教育大学長  長友 恒人

最終更新 : 2022-05-11 10:00