平成27年度入学式を挙行しました。 公開日  :  2015-04-02 15:41

なっきょんの大学レポート

 平成27年4月2日、奈良教育大学講堂において、平成27年度入学式を挙行しました。

 満開の桜の下、363名の新入生が、緊張した面持ちで奈良教育大学での新たな生活をスタートさせました。

 長友恒人学長からは、「実践的体験は困難にぶち当たったとき、解決の糸口を切りひらく潜在的な力になる。」、「人間(ひと)としての存在の魅力」の基礎を学生時代に築いて欲しい」とエールが送られました。

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 教職員一同、みなさんの本学での生活が充実したものになるよう、応援しております。

【新入生】

  • 教育学部 271名
  • 大学院教育学研究科 80名 (修士課程52名、専門職学位課程28名)
  • 特別支援教育特別専攻科 12名 

  入学式の様子 部活に勧誘する様子
 告辞を述べる長友学長              部員を獲得しようと勧誘に励む在学生

■ 学長告辞


入学式学長告示

 本年度は、教育学部271名、大学院教育学研究科80名、特別支援教育特別専攻科12名、合計363名の入学生を迎えることができました。本学教職員を代表して、みなさんの入学を心から祝福し、歓迎いたしますとともに、みなさんの学びと研究に対する指導助言、大学生活に関する相談と援助について最大限の努力を惜しまないことをお約束いたします。

 さて、学部入学のみなさんは、小学校から高等学校まで12年間の教育を受けてきました。人類が営々と築いてきた学問の成果を知識として吸収して自分流に組み立てることがこれまで12年間の「学び」でありました。大学での「学び」は、これまでの「学び」に加えて、「自らの関心に焦点を当て、課題を発見し、その課題の解決に向けて自ら答を導く」という研究の要素が加わります。

 ここで、私が現役の研究者として最後に関わったプロジェクト研究の例をお話しします。「環境変化とインダス文明」というプロジェクト研究ですが、国内外の50名以上の研究者がチームをつくって6年間継続しました。プロジェクトメンバーの専門性は多様で、言語学・文化人類学・考古学・インド学等の人文系に、地質学・自然地理学・地球物理学・気候変動学・生物学・農学・植物遺伝学・DNA考古学・年代学等々の自然科学研究者が加わった学際的なプロジェクトです。
「世界四大文明はいずれも大河流域に発達し、独自の古代文字と王権者を持つ文明である」と私たちは習い、教科書にもその様に記述されています。インダス文明は、「インダス河と現在は存在しない伝説の川(サラスワティー川)の氾濫原に発達した文明である」とされていますが、印章の文字はあるものの、エジプトのロゼッタストーンや石棒の刻まれたメソポタミアのハンムラビ法典のような文章になった文字列が見つかっていない、王権があったという確かな記録や遺跡も発見されていない、など他の古代文明と比べて不明な点が少なくありません。

 私は、このプロジェクトの「古環境グループ」の一員として、「現在、雨期にだけ水が流れるガッカル・ハークラー川が伝説のサラスワティー川であるのか、ガッカル・ハークラー川が流れるタール砂漠ができたことによってインダス文明が滅びたのか」というテーマで、現地調査を含めて年代学の立場から参加しました。年代測定の結果、「タール砂漠はインダス文明が誕生する遙か以前に形成されていた」、「インダス文明は砂漠の上に成立した都市文明であった」ということを明らかにすることができました。」現在でも砂漠の上に遺跡が発見されるのですから、この結論は間違っていないでしょう。

 我ながら、「目から鱗」の結論でしたが、「世界四大文明はいずれも大河流域に発達した文明である」という概念はどうして定説になったのだろう。ここに教科書やインターネット情報だけでは得ることができない「研究」のおもしろさ、つまり「課題設定をして実際に調査して答えを導き出す」おもしろさがあります。


 ところで、「課題を発見すること」と「課題を解決して答えを見出すこと」は、どちらが難しいでしょうか。「課題を解決して答えを見出す」ためには、自ら調べ、データを整理分析して答えを見つけることになりますが、課題が明確であれば、一定の答えを見つけることは比較的容易です。一方、「課題を発見(設定)する」ためには既成の概念にとらわれずに問題意識を明確にすることが不可欠です。そうでなければ、「インダス文明は世界四大文明のひとつであるから大河文明である」という固定観念から抜け出すことができません。自分が何を知りたいのか、自分に何が必要なのか、自分が何になろうとしているのか、が明確でなければ、一生懸命勉強して優秀な点をとっても単なる秀才であり、知識のパッケージに過ぎません。そこから新しい何かを生み出す躍動性は生まれません。大学での学びの「課題」は先生に与えられた宿題ではなく「自分にとって解決すべき課題」だから、オモシロイのです。

 「極めたい課題は何か」を自分に問いかけて設定するためには、幅広い知識が必要です。大学で広く、深く知識を吸収し、体験的に学ぶなかで、自分を客観視し、相対化するなかで自分の「課題」が見えてきます。一見して、すぐには役立たない知識を幅広く、また深く吸収してください。体験を重ねることによって直感を研ぎ澄ます訓練も重要です。そのプロセスで、「基礎基本」が足りないと感じることがあったとすれば、それはチャンスですから、「基礎基本」にも取り組んで下さい。そういうことが積み重なって身についたものが諸君の「教養」となり、「資質」となります。


 みなさんの研究で専門性を高めるのは、教職科目であり、教科専門科目でありますが、大学のカリキュラムで用意されている授業だけでは必要なすべてを教授できないことは自明のことです。授業では、「学び方を学ぶ」ことが重要です。「学び方」を習得することによって、自分の関心に応じたアプローチをすることができるようになります。学びを重ねる一連の作業によって、学びを楽しいと感じるようになるでしょう。義務的に学ぶのではなく、学びを楽しんでください。

 課外活動に、フィールドワークに、スクールサポート活動やボランティア活動にトライして、新しい発見をしてください。授業で学ぶこととは異なる体験のなかに学びを深めるヒントがあるかもしれません。海外に出ること、いろいろな本を手当たり次第に乱読することも有効です。学生時代の知的体験、実践的体験が多ければ多いほど、裾野が拡がり、高い専門性をピラミッドのように築くことが可能になります。知的体験、実践的体験は困難にぶち当たったとき、解決の糸口を切りひらく潜在的な力になります。それは、また、人生を楽しく、豊かにします。


 今までお話ししたことと重なりますが、みなさんがこれから過ごす大学生活において重要な3つのことを強調したいと思います。

  • まず、学びを習慣化することです。
     自ら学び続けるためには、基礎基本の知識や技能が身についているかどうかを自問してください。そのうえで、学ぶ目的が明確であることが必要です。学びが楽しいということを見つけてください。義務的な「勉強しなければいけない」では学びを継続できないし、発展的な考えは浮かびません。大学は「学び方を学ぶ場」であります。大学院と特別専攻科のみなさんは、学びの目的はもとより明確であり、既に研究の手法を身につけていると思います。さらに磨きをかけて、もう一段の高みに上っていただきたいと思います。
  • 2つめに強調したいことは、協調・協同・仲間作りです。
     学びには、ひとりでする学びとチームで行う学びがあります。思索が必要なときはひとりで寝食を忘れることもあるかもしれません。グループで行う場合にはコミュニケーションを密にして自分の役割を意識することがよりよい結果を生みます。コミュニケーションで重要なことは、自己を正確に表現し、他者をありのままに理解することです。自己を客観的に見ること、相対化する力がチームワークのなかで培われるでしょう。授業や研究環境の友人関係だけでなく、課外活動の中でのチームプレイも社会性を身につけるいい機会です。課外活動や学校支援活動のなかで、人と人、人と組織、人と地域を繋ぐリーダーシップを自分のものにしてください。
  • 3つめは、体験・実践の重要性です。
     学びを深めるためには、「裾野」を広げることが必要です。「裾野」を広げるために、大学の授業の他に、課外活動、フィールドワーク、ボランティアに取り組むことが有効でしょう。自分とは異なる視点からの考え方にヒントがあるかもしれません。留年覚悟で海外に出たり、留学生と交流することも効果的です。いろいろな本を乱読してください。学生時代の知的体験、実践的体験が「想定外の事態にあたって的確な判断をすることができる基盤」となり、「答えのない問題に出会ったときに、最善の解を導く源泉」となるのです。また、学生時代にどれだけ広く、深く、いろいろな世界を知り、体験したかということがみなさんの人生を楽しく、豊かにします。

 みなさんの多くは将来教壇に立つことになるでしょう。小学校から今日までに「素晴らしい先生」「輝いて見える先生」、「あんな大人になりたい」という恩師がいたと思います。どんな職業人になるにしろ、人間(ひと)としての魅力をもちたいものです。豊富な知識とともに身につけたいことは「人間としての存在の魅力」です。「存在すること自体が魅力」である教師は豊かな知識と技能、高いコミュニケーション力に加えて、豊かな心と包容力を持っています。その基礎を学生時代に築いていただきたいと思います。

 みなさんの奈良教育大学での生活が、豊かで、充実したものになることを信じて、告示といたします。

 

平成27年4月2日  奈良教育大学長  長友 恒人

最終更新 : 2022-05-11 10:00