平成29年度卒業・修了式を挙行しました。 公開日  :  2018-03-23 09:16

なっきょんの大学レポート

 平成30年3月23日、奈良教育大学講堂において、平成29年度卒業式及び修了式を挙行しました。

 加藤久雄学長からは、「「教育の大学」を母校とする皆さんは、学ぶということ、教えるということ、そして、文や文章のレベルまで物事を考えるということを何よりも大切に、奈良教育大学を母校とすることに誇りをもって、歩んで行ってください。」とエールが送られました。

 卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。

 本学で得られたものを生かしご活躍されることを、心よりお祈りいたします。

【卒業・修了生】

  • 教育学部 270名
  • 大学院教育学研究科 70名 (修士課程42名、専門職学位課程28名)

告示を述べる加藤学長 卒業おめでとう!
告辞を述べる加藤学長          卒業おめでとう!

■ 学長告辞


 本日、ここに、晴れの日を迎えられました奈良教育大学 教育学部を卒業される270名の皆さん、また、大学院教育学研究科を修了される70名の皆さん、誠におめでとうございます。

 ご来賓の柳澤保徳元学長先生をはじめ、後援会の清水政廣会長、柏原力副会長、また、同窓会の森康雄会長、中川克己副会長、そして、今年度退職されます福田清美教授、福光佐今教授、松川利広教授、吉田誠教授のご臨席のもと、列席の宮下理事、岩井理事、菅監事、和田副学長、佐野副学長、高橋副学長をはじめとする教職員一同とともに、皆さんのご卒業を心からお祝い申し上げます。あわせて、ご家族や関係者の皆様にも、お祝いを申しあげますとともに、本日の卒業式の日を迎えるまで、皆様よりいただきました数々のご支援に対し、心より御礼申し上げます。

 さて、皆さん、2年間、4年間、あるいは5年間、また、学部と大学院を合わせて6年間、その長さも人それぞれですが、各人の大学生活は、どのようなものだったでしょうか。

 授業や研究室でのゼミや実験では、力の限り、それぞれの学びに取り組まれたことだと思います。また、クラブやサークル、学友との学び合いにも、生涯の思い出となることがたくさん思い浮かぶのではないでしょうか。採用試験の合格を知った日が「大学生活最高の日」だったと振り返る方もおられるかと思います。また、あと一歩で単位を落としてしまったことから人生に必要な多くのことを学んだこともあったかもしれません。

 各人がそれぞれの大学生活を満喫し、様々なことに力一杯取り組んだのだと思います。そして、今日の日を迎えることができた皆さんを、私は、大変、誇りに思います。

 大学生活の思い出とともに、是非とも、一度、入学した時の自分と今の自分を思い比べてみてください。大切なことは、まわりとの比較ではありません。大切なのは、過去の自分と今の自分を思い比べることです。入学した時の自分と今の自分との違い。それは、皆さんひとりひとりの成長であり、ひとりひとりの財産です。何ができるようになったのか。どのようなことに知識や関心が高まったのか。そして、何についてより自信を持つことができるようになったのか。

 今日の卒業式・修了式の日に、是非、一度、自分を見つめ直してみてください。そして、是非、その思いを文章にしたためて未来の自分のために残してください。そして、できれば、友人同士、研究室の先生、家族の方々とその思いを共有してください。

 さて、皆さんの在学中に急速に進化し私たちの生活の中に深く入り込んできた新しいテクノロジーに、人工知能、AIがあります。お掃除ロボット、スマートフォンとつながる洗濯機、エアコン、車の自動運転など、人工知能が活躍する機械があふれ出しました。また、身近な人工知能として、スマホのSiriがあります。今、胸のポケットや鞄の中にスマホをお持ちの方は、人工知能を持ち歩いているわけです。

 私は、スマホ歴2年ほどで、使いこなしているとはとても言えません。Siriも使ったことがありませんでした。そんな私が、先日、あるきっかけで、Siriと向きあうことになりました。深夜2時過ぎに仕事を終え、Siriに「おやすみなさい」と言ってみたのです。きっと、「おやすみなさい」と返してくる思いながらです。そしたら、Siriはなんと応えたか。「あっ、もうこんな時間なのですね。おやすみなさい。」と言ってきました。なかなか、いいやつじゃないかと思わず思ってしまいました。

 Siriは、現在時刻を把握して、「あっ、もうこんな時間なのですね。」と応えたわけです。スマホには時計がついていますから、それくらいの知恵は当たり前だと思い、今度は深夜2時過ぎに、スマホという機械に向かって、「あけましておめでとうございます。」と言ってみたのです。そしたら、Siriは、今度は、ちょっと生意気でした。「お正月はもう終わったと思うのですが。」と返してきたのです。

 スマホには、カレンダーも仕組まれていますから、これくらいの知恵は当たり前。5分ほど前に、私はSiriに「おやすみなさい」と言ったのですが、こう言ったらどうなるだろうかと、「4時に起こしてください。」と言うと、Siriは、「はい、アラームを4時にセットしました。」と応えて、アラームのセット画面を表示させてきました。2年前に知っていれば、と思う機能でした。

 なるほど、人工知能は、こういうことができるのか。人工知能が発達するとなくなる職業などということが話題になっているのも、うなずけると思ったわけです。ならばと思い、「奈良にあるおいしいフランス料理屋さんは?」とたずねると、「はいこちらが見つかりました。」と、画面にお店の名前が並びました。知ってる店もあるな、などと思いながら、今度は、「奈良にあるおいしくないフランス料理屋さんは?」とたずねてみたのです。

 どうなったと思いますか?「はいこちらが見つかりました。」となって、お店の名前が画面に並んだのです。しかし、よく見てみると、先ほど「奈良にあるおいしいフランス料理屋さんは?」とたずねた時と同じ画面で、同じ店ばかりです。

 「おいしい店」と「おいしくない店」の答えが同じであるということをどう捉えたら良いのでしょうか。しかし、ネットの時代を生き抜いてきた皆さんは、ここで、Siriが何をしているか、お分かりだと思います。それは、Siriは文や文章レベルで、考えていないということです。「奈良」「おいしい」「フランス料理」「お店」といった単語を、キーワードとして検索をかけて、検索結果を答えとしているわけです。それは、あくまでも「単語」のレベルで、「おいしくない」という否定形の文構造にまで、Siriは、私の問いかけを解釈してくれていないのです。今のところ、人工知能は、文や文章のレベルまで、考えをめぐらせるのが得意ではないようです。

 このように、私たちと人工知能とのおつきあいは、現段階では、単語レベルで、大量のデータから、マッチングしたものを回答であると受け取る段階にあるわけです。ですから、上手につきあうテクニックが必要であり、皆さんはそのことも十分承知の上で活用しているのだと思います。

 しかし、ここに大きな落とし穴があります。このような段階のもの、単語レベルの段階のものと日常的におつきあいしていると、私たちはどんどん、単語レベルの思考になってしまうのではないでしょうか。また、論理というよりマッチングの発想で、物事を判断し押し進めていってしまうのではないでしょうか。

 どうか、人工知能の時代にこそ、文や文章で物事をとらえることを大切にして歩んで行っていただきたいと思います。既に、教育の世界では、知識を与えるだけの教師の役割は終わろうとしています。どれだけ知識が増えた、どれだけ暗記したかではなく、どれだけ考えたか、どれだけ理解したかが問われる時代になってきています。

 さらには、学ぶ意味は、「行動の変革」にあるとも言われます。本学は、日本に5つしかないユネスコの認めたユネスコスクールの大学です。ユネスコは、ESD、持続可能な発展のための教育を推し進めていますが、学ぶことの意味は、「行動の変革」にあると言っています。

 例えば、いくらエネルギー問題に関する知識と理解が増しても、家に帰って、こまめに電気を消すことができないのであれば、学びの意味はなく、学びは行動の変革につながらなければならないというのが、ユネスコの考え方です。

 もうお分かりだと思います。今のところ、人工知能は「考えていない」のです。単語レベルのマッチングで、ビッグデータに検索をかけて応えているだけなのです。

 しかし、これまで人間にしかできないと思われていた仕事が、人工知能の進歩によって、ロボットなどの機械に代わられようとしています。

 このような時代を生き抜いていくためには、「咲く」「桜」「春」という単語レベルから、「桜が見事に咲いた」という文のレベル、さらには、「春になって、桜が見事に咲いた。そして、みんな、新しい生活を始めた。」という文章のレベル、論理のレベルまで、自らの学びや教えを高めてください。

 「教育の大学」を母校とする皆さんは、学ぶということ、教えるということ、そして、文や文章のレベルまで物事を考えるということを何よりも大切に、奈良教育大学を母校とすることに誇りをもって、歩んで行ってください。是非、今日の日の思いを、文章にして未来の自分に残してください。

 以上、告辞とさせていただきます。

平成30年3月23日  奈良教育大学長  加藤 久雄

最終更新 : 2022-05-11 10:00